風に乗って、散る誓い
09 ほんの少しの力を僕に
「・・・アスラン・ザラ。
「・・・はい・・・」
黒板の前に立つ教師に名前を呼ばれて、アスランは俯いていた顔をあげる。
授業が始まって10分がたつが、隣のの席はまだ空だった。
いくらしょっちゅうが授業をサボっていても、いつもこの授業は必ず出ていた。
「悪いが、職員室にプリントを取ってきてくれないか?」
「はい。」
本当に申し訳なさそうに言う教師には悪いが、を探すには絶好のチャンスだと思った。
ずっと何故か胸騒ぎする予感が的中しないようにと願いながら、アスランは 足早に教室を出て行った。
「・・・っ・・・」
目の前が急に明るくなった気がした。
だんだんと視界を慣らしながら、ゆっくり重い瞼を開く。
視界に入ってきたのは、ドアの隙間から漏れる光。
積み重なった教科書が横に見える。
「ここ・・・どこだっけ・・?」
口から出たのは自分のモノと思えないほど弱弱しい声で、ところどころ擦れていた。
体を起こそうにも、右に横たわっている上に肝心の右手が痛く思うように動かせない。
腹筋に懇親の力を込めたら、そのまま仰向けになってしまった。
「はぁ・・・」
もう溜息しか出ない。
ガタッ、とその時ものすごい音がして、は反射的に音のした方へと首を傾けた。
そうやら、窓下のロッカーの上に置いてあった箱が落ちた音らしい。
周辺には埃が散っている。
『お母さん?』
「えっ?」
突然、なんの前触れも無く頭の中から小さな幼い声がした。
ふと視線を上げると、窓から土砂降りの雨が降っているのがわかる。
『ねぇ、お母さんは?』
まただ。
今度は何かに懇願するような、今にも泣きそうな声。
「だめ・・・・」
思い出すな。
外を見るな。
は必死で理性を保とうとしようとして、否定の声をあげた。
しかし、気持ちとは裏腹に目はどうしても土砂降りの外へと向いてしまう。
「・・いやだ・・・」
鼓動はどんどん早くなる一方だった。
ガタガタと震える自分の体を、はきつく両腕で抱きしめた。
『ねぇ・・・、どうして・・・』
泣きながら必死で小さな声は想いを伝えようとする。
『あんたのせいよ! 全て! 何もかもあんたが生きてるからいけないのよ!!』
あぁ・・・・、全てを思い出した。
「・・っ・・、いやぁぁ!!! 行かないでよ、一人にしないでよぉぉ!!!」
階段から落ちた衝撃のせいで、上手く動かない体が軋むのを無視しては立ち上がった。
未だに血が流れているところがあるのにもかかわらず、フラフラとドアに近寄る。
「誰かぁ・・・。 お願い、アスラン・・・。 一人にしないでよぉ!!アスラン!!!」
外側から鍵がかかっているのにもかまわず、はドアを開けようと無我夢中で叩いた。
「・・・ねぇ、アスラン!!!」
「!?」
を探しに教室を出て、かれこれ20分は経った。
教室、屋上、保健室・・・。
が行きそうな場所は全て当たったつもりだった。
やはり何かあったのか・・・
嫌な胸騒ぎとともにどうしても考えはそっちに行ってしまう。
「残りは校庭か・・・」
しかし今日は雨だ。
いつだかの雨の日あんなに真っ青な顔をしていたが外に出るとは思えない。
「クソォ!」
を見つけられない自分に腹が立ったのかアスランは、思いっきり壁を蹴飛ばした。
鈍い音が、シーンとした廊下に響く。
「階段・・・?」
ふと、アスランの頭の中につい30分ほどまえの光景が蘇った。
教室へと向かう1階への階段を降りた時、なんとなくに名前を呼ばれた気がしたのだった。
その時、フレイが話しかけてきたので振り向くことは出来なかったが、確かにに名前を呼ばれたと思う。
「もしかして、あの階段?」
とにかく、急げと何かが命令していた。
どうして、振り向かなかったのだろう。
今更といわれるかもしれないが、やはり後悔してしまう。
「!?」
廊下を西から東へと疾走し、ようやく問題の階段へとたどりついた。
そこは薄暗くひんやりとしていて、周りとは温度差があるような気がする。
「コレは・・・」
階段の途中に落ちてたのはのものらしきノートだった。
中を開くと綺麗な整った字で要点だけがまとめてある、まぎれもないのノートだった。
「何処にいるんだよ!!?」
アスランはそのノートを、無意識に抱きしめた。
必死で想いを伝えるように。
「アスラン!」
アスランの耳に届いた探し求めている声は、あまりにも弱弱しくて思わず幻聴かと疑ってしまう。
「!!!」
「アスラン!!!」
幻聴なんかではない。
本当にの声がした。
アスランはまるで吸い込まれるように、廊下の一番奥の教室へと走った。
バンバンと、内側からドアを叩いているのか、その音だけがやけに耳に付く。
「!今あけるから!」
「・・アスラン!」
は泣いているようだった。
それも、の口から出る言葉から何か深い理由があることが予想できる。
鍵を外すのがこんなに、もどかしい事だと思わなかった。
この扉1枚がこんなに厚いなんて想いもよらなかった。
「・・・」
ようやくドアが開いた。
が驚いたような顔でこっちを見ている。
「・・いや・・・」
「・・えっ?」
「いやぁ!!! こないで!!!」
アスランの差出た手を払いのけ、後ずさりしたの口から出たのは否定の言葉だった。
「、俺だ。 アスランだ!」
「・・・いやぁ・・・・」
アスランが一歩踏み出すと、それに比例しても一歩後ずさる。
「落ち着け。俺だ。」
まるで小さい子供をあやすように言い聞かせたアスランは、後ずさりするを無理やり自分の腕の中に閉じ込めた。
そのままが抵抗するのを無視して、きつくを抱きしめる。
「もう、大丈夫だから、。」
「・・・アスラン・・・」
は、そのまま抵抗を止めた。
本当に安心したようにアスランの名前をつぶやくと、そのまま腕の中で気を失った。
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