それは風のように突然、気まぐれに・・・












07 太陽のように暖かい時













「あっ、お茶が無い・・・」


久しぶり・・・といっても、週に必ずやってくる日曜日。

は冷蔵庫の中を見て溜息をついた。

もうすぐお昼という時間、水でもいいのだかやっぱりお茶が恋しい。



「しょうがない、買いに行くか。」




雲6割、晴れ間が4割といったところか。

ありそうでなさそうな、微妙な天気の日。

いつものように空を見上げて決意したのか、は財布を持って家を出た。
















――――いらっしゃいませ。



自動ドアをくぐると、当たり前に聞こえる店員の声。

ほどよく暖房のきいたコンビニは、それなりに快適な温度を保っていた。

お目当てのお茶の入ったケースの前に来たの脳裏に、ふと『トライアングルの法則』の話が蘇った。













「なぁ、トライアングルの法則って知ってる?」

「知らないけど・・・。なに?それ。」



たまたま自習となった時だろうか。

なんの脈絡もなくアスランがそう切り出してきたと思う。



「コンビニって、入って右側に雑誌、その奥に飲み物、反対側に弁当ってトライアングルの形に回るようになってるんだって。」


「・・・言われてみれば。それってお客が取りやすいように?」


「そう。要するにいろんなものを買ってもらいたいからね。」


「夢が無いね、アスランは。」


「トライアングルに夢なんか託さないさ。」



思わず笑った。

確かここで、隣の教室の教師が入ってきておしゃべりは終わった気がする。




















それを思い出すと、思わず笑いがこみ上げた。

トライアングルに夢を託す少年・・・・、意味がわからなさすぎる。




「なにニヤけてるんだ、?」


「・・・うわっ!」




笑いが顔に出ないように俯いていたの耳元で突然、誰かがささやいた。

驚いて顔をあげると、不思議そうな顔をしたアスランが立っている。






「アスランか・・・。驚かさないでください・・・」


「コンビニで笑ってるやつが可笑しいだろ?」


「えっ、笑ってたの、あたし?」


「いや、なんとなくそんな気がしてね。」




そう言って見たアスランは、見慣れた制服ではなくラフな私服を着てた。

手には、パンなどが握られている。






「それ・・・お昼ご飯だったり?」


「えっ、そうだけど。」



へぇ〜とは頷く。

そして、自分の手に握られているお茶を見た。





「暇ならあたしの家、こない?」


「・・・ほんとに?」


「だってどうせいつもそんなものしか食べてないんでしょ?あたし一人だからおいでよ。」


「・・・じゃあ、お言葉に甘えて・・・」



何故自分の口からこんな言葉が出たのか、にもわからなかった。

別に一人がさびしいとか、本気でアスランの食生活を心配したワケでもない。

理由はわからないけど急に恥ずかしくなったは、思わず笑ってごまかした。

アスランも小さく笑っていた。


















「どうぞ、入って。」


「おじゃまします・・・」



二人が会ったコンビニから歩って5分のところにあるマンションがの家だった。

自分が一人暮らしをしているマンションと意外と近いことにアスランは驚く。



「そこの机に座ってていいから。」



部屋に入って、すぐにあるリビングにおいてあるダイニングの机をは指差した。

とてもシンプルで、無駄なものは一切置いていない。

彼女らしいといえば、彼女らしい部屋。

微かに香る匂いも、机に置いてある読みかけの本も、書きかけのレポートも全てがだった。




「あっ、絶対に隣の部屋は覗かないでね!」


台所で、冷蔵庫を覗いていたが思い出したように言う。


「だめって言われると、やりたくなる性格だから。」


「絶対やめて!!」










しばらく経つと、いい匂いがリビングまで漂ってきた。


そうなると何故だかこうしてただ座っている自分が滑稽に思えて、アスランはのいる台所へと行く。



ってやっぱり、女なんだな。」


「アスランが言うと、変態っぽく聞こえる・・・」


「・・・失礼な。」



何気ないやりとりの一つ一つがむず痒く、今日は新鮮に感じる。



「ねぇ、暇ならそれあっちに持っていってくれない?」

「了解です。」


が指差した方には、シチューののった深皿が2つ。


「あと、スプーンとフォークもね。」


「わかりました。」



手馴れた手つきで用意をするを、アスランは微笑ましそうに見た。

リビングにはできた手の昼食に、窓から溢れんばかりの光が注ぎ込んでいた。

















「それ、食べられる?」


アスランがシチューを口に運んだとどうじに、が聞いた言葉は予想を大きくかけ離れたものだった。



「普通、おいしいとか聞くんじゃないか?」


「だってそれ、昨日の残り物だし。」


「・・・・おいしいですよ。」


「よかったぁ。」



どちらかとともなく笑い合う。



「なんか、新婚夫婦みたいだな。」


「・・・気持ち悪いこと言わないで。」



食べたスープに、虫が入っていたような顔でが言った。

思わずアスランは苦笑する。



「きっと、いいお嫁さんにでもなるんだろうな。」


「・・・間違いなくアスランは、尻に潰されるタイプだろうね。」


は、潰す方?」


「さぁ。人にもよるんじゃない?」



というか、結婚なんかするのかなぁ・・・、とは呟いた。

アスランが、俺とは?と聞き返す。



暖かなお昼だった。





いつまでも、この時間が続きますように。






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060322