開いた口が塞がらないって、こういうことだ。
その瞳が見たもの
「えっ、ちょっとまって・・・」
今にもパンクしそうな頭を整理しようと、は深呼吸して目の前に座る人物にストップをかけた。
どう考えても、これは夢ではない。
それに目の前で困ったように笑うこの男が嘘をつくとも思えない。
「じゃあ、今、私がいるここは約800年前の世界の福原っていうところで、源平合戦の真っ最中。
それに死んだはずの平清盛はフェアリーみたいになってるし、ここは平家の邸で、私より1つ年下だった有川くんは
私より1つ年上になちゃって今は還内府なワケ!!??」
「あ、あぁ。全部正解。」
「しかも元の世界に戻る方法はわからなくて、有川君が平重盛っていう人に似ていて還内府で私はその知り合い
だからこの邸に居座らせてもらえるの?だからこの部屋で寝ていた??」
「そうです。まさか先輩まで巻き込まれていたなんて・・・」
それだけ言い切って将臣の表情を伺った、は思わず絶句した。
嘘というのにはあまりにも手が込んでいて、真実というには信じ方過ぎる。
呆然とただ隣にいる将臣の顔を見ると、彼は困ったように苦笑した。
彼も同じような思いをしたのだろうか、たった一人で。
「なんで有川くんがそんな顔してるの。まぁ、タイムスリップなんて非科学的な体験なんて滅多に出来ないしね。」
「・・・でも・・・!」
「あたし、日本史専攻だったしね。日本史は好きだから。」
会話がなくなって、思い沈黙が辺りを漂った。
夕暮れの庭から涼やかな虫の鳴き声が聞こえてくる。
季節は夏から秋へと移り変わろうとしていた。
「・・その怪我だって・・・」
「ほら、受験生は運動不足だからさ。それにちゃんと今生きてるんだから。」
「それでも、怪我したんですよ!!」
「有川くん・・・」
白い寝巻きの間から見える地が滲んだ包帯代わりの布を見て、苦々しげに将臣が声を荒げた。
人間ではない気持ち悪いもの、とは言った。
それは間違いなく怨霊だろう。
雪見御所の周辺に護衛として置いておいた怨霊が、こんなことを招くなんて。
「・・・そういえば、私を助けてくれたのって・・・有川くん?」
「あぁ、それは・・・」
どこかうわ言のように将臣はつぶやいて、御簾の向こうに視線を向けた。
静かな空間に微かな衣擦れの音と、足音がする。
御簾の向こうに人影が現れた。
「いるんだろ、知盛。」
「クッ、何でもお見通しか、有川。」
「入って来いよ。」
「言われなくとも、そのつもりさ。」
はらり、と御簾が揺れて人影が姿を現す。
日差しとともに、生暖かい風が銀色の髪を揺らした。
「あなたは・・・」
ハッ、と息を呑んでは声を漏らした。
背に夕日を浴びて薄く笑うその人は、月光を浴びて刀を持っていたその人本人だった。
「お目覚めかな、」
「って・・・・、名前・・・・」
「クッ、忘れるはずも無いさ・・・。戦場に光を伴って舞い降りた天女の名をな・・・」
「・・・て、天女って・・・・」
顔をひきつらせて戸惑うに知盛はまた微かに笑う。
その横で将臣が呆れたように溜め息をついた。
困惑して視線を彷徨わせるを一瞥すると、知盛はゆっくりとの傍まで寄っていった。
気付けば知盛の手はの顎にかかり、異様に顔が近い。
「平知盛だ・・・、楽しませてくれるんだろ、?」
波乱の日々が幕を開けた。
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070322
知盛にヒノエ的な台詞を言わせようとして撃沈しました。