結局、強大な世界の目の前では

私は無力に過ぎなかった
















黎明の彷徨い人

















目が、覚めた。

頭に意識が戻ってきて覚醒する。

重たい瞼はまだ閉じたままだ。



「あたし・・・・何してたんだっけ・・・?」



どうして自分はこんなに悠長にも寝ていたんだろう、とふと考える。

何かの授業中だったのか、それともまだ自室の布団の中なのだろうか。

どちらにしてもあまり状況はよろしくないみたいだ。



「・・・・・・ここって・・・・・」



目を開けて、身体を起こす。

視界に入ってきたのは慣れきった教室でもなくて、居心地のよい布団でもなくて、

鬱蒼とした草や木が生い茂り、静寂という文字に支配された暗闇だった。



「何・・・コレ・・・・、冗談でしょ・・・」



握り締めた掌に汗が滲む。

冷静になれ、と頭の中で声がする。

もしかしたら、これも夢なのかもしれない。


言いようのない不安が一気に体中を駆け巡り、鼓動が早くなった。

明かりも無い、音も無い、その静寂は不気味だった。

無意識に一歩、後ず去り、踏み潰した落ち葉の音にさえ過剰に反応してしまう。



「・・・・意味わかんないよ・・・・」



笑っているのか、泣いているのは震える声で精一杯紡ぎ出した声は何処へと届く事は無かった。

言いようの無い恐怖と、不安と、焦りで視線が定まらない。



ふと、遠くから何かが落ち葉を踏む音がしてそちらを振り返った。

暗闇の中、姿形は見えないがもしかしたら救援が来たのかもしれない。




そう安心したのもつかのまだった。

それまで月を隠していた雲が動き出す・・・

辺りを朧気な月光が照らし始めたその時、"ソレ"は姿を現した。





「・・・な、何っ!? 来ないでぇっ!!」

「グワァァァァァッ!!!」



月光と共に姿を現した"ソレ"は救援にきた人々でもなく、もはや人間と呼べるに値するものではなかった。

血に塗れた鎧に振り上げられた刀。

その顔は肉血で出来ているのではなくまるで骸骨だった。

何かに捕らわれてしまったかのように叫び続けながら"ソレ"はに向かって刀を振り下ろした。




「・・ッ!!!」




声にもならない鋭い刺激が右肩に走る。

とっさによけたおかげで身体を真っ二つにすることは避けられたが、倒れこんだ先に逃げ場はもう無かった。

右腕は焼けるような熱さに支配されて使い物にならない。

再び叫びながら振り上げられた刀が月明かりに反射して鈍く光った。




――死ぬんだ――





漠然と思った。

恐怖で立ち上がることも出来ず、無意味だとわかっていても動く左手を顔の前に翳す。

目を瞑った。

ただ、悔しかった・・・・

無力な自分に、何も知らない空間で死ぬ事に。





自分に突き刺すさめに刀が空気を切る音がする。





その時、だった。


キンッ・・・・と金属と金属がぶつかりあうような甲高い音が耳にいた。

そして耳を塞ぎたくなるような断末魔のような叫び声。

いつまで経っても襲ってこない、予想していたような死はそこにはなく。

ただ どうして と、それだけが頭の中を支配した。





「・・・そこの女・・・」

「・・・・・」

「・・・聞いているのか・・?」

「・・・・ッ・・・・・」




ゆっくりと、硬く閉じていた瞳を開く。

時間が、止まったように1秒1秒が長く感じた。


白み始めた空の光で薄く輝く銀色の髪。

まっすぐに射る様に見下ろす、冷たい紫水晶のような目。

その人、は血に濡れた刀をゆっくりと鞘にしまうと吸い込むような視線でを見つめた。





「・・・・あなた・・・は・・・・」

「・・・お前は、誰だ・・・・・?」

「私は・・、・・・・」

「・・・随分と、よい名だな・・・・・・・・」




名を呼ばれた安心感か、微かに笑った顔に安堵したのか・・・。

自分の意識と、目の前が次第に暗くなっていくのを感じた。

目の前の彼が何か言った気がしたが、それさえも聞き取れなかった。

どうか夢であって欲しい、と願いながらは急速に襲ってくる暗闇に身をまかせた。






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070302