手の届かない存在だった
another story 01 そして明日は変わる
「だから、何?」
春。
学年は一つ上がり、クラス替えで一緒のクラスとなった。
毎年のごとくクラスの中で浮いた存在だったあたしは、同じくいつも1人でいるを見つけた。
「あたしフレイ・アルスター。よろしくね。」
精一杯の笑顔で言った最初の一言。
友達が出来るかもしれない、そんな淡い希望を抱いていたあたしに返ってきたのは冒頭の冷たい一言だった。
読んでいた本から顔をあげ、あたしを見たアイスブルーの瞳はまるで底の無い凍りついた冬の湖のよう。
ただあたしは意味も無く「ゴメンね・・・」と小さく謝罪の言葉をのべるしか出来なかった。
それ以来、あたしはに話しかけること愚か、近づくことさえ出来なかった。
「はぁ・・・」
深い深い溜息をついて、あたしは自由になれる屋上への扉を開ける。
6月が始まったばかりだというのに、丁度お昼ころの太陽は嫌と言うほど輝いている。
「あぁ、ほんとムカつく・・・」
無意識に人のあまりいない屋上の隅の方へ辿りついたあたしは、胸の奥で溜まりに溜まった今日の午前中の鬱憤を口にした。
鬱憤の原因は、1人になりたくないという思いから適当に入ったグループの人が対象である。
「そんなにムカつくなら、最初から1人でいればいいじゃん。」
「・・・!?」
突然聞こえた1人ごとへの返事に、あたしはだた驚いて辺りを見回した。
あたしがグループの悪口を言ったなどとバレたら、ただでは済まない・・・・
「それとも、誰かにひっついていなきゃ生きてられないの?」
そしてあたしは、その嘲笑を含んだような声の持ち主を見つけた。
あたしの背丈より少し高い貯水槽の端に腰掛けて、光を浴びて、その人物はあたしを見ていた。
「さん・・・・」
「名前で呼んでいいよ。」
「えっ・・・・」
時々吹く風に制服のスカートをはためかせながらそう言うは、声も表情もあの時とまったく変わっていない。
それでもどこか人を寄せ付けないオーラは、少しだけ霞んでいた。
あたしは軽く拳を握り締める。
「あの、さっきの悪口のこと・・・、誰にも言わないでくれない・・?」
「別に誰かに告げ口とかする気ないし。それにただのフレイの独り言なんでしょ?」
帰ってきた答えは、予想とは相反するものだったが少しだけ安心した。
だが、その後に続く沈黙が痛い。
「あ、あのさ、は・・・なんで1人でいて平気なの・・・・?」
ずっとずっと、疑問に思ってきた事。
静かな空間に遠くから、女子生徒の笑い声が聞こえた。
そしてあたしはとんでもなく無礼なことを言ったのに気がつく。
「ゴメン、やっぱ・・・・」
「じゃぁさ、なんでフレイは1人じゃいられないわけ?」
「そ、そんなの・・・・」
質問を返されて、あたしはただ俯くことしか出来なかった。
上から見下ろされているの視線を嫌というほど感じた。
意味も無く視線は、自分の影の輪郭をたどる。
「だってさ、何が楽しいわけ? 誰かの後金魚の糞みたいにくっついて、影で悪口言って、ピンチの時だけ友達面してさ。しゃべるにもいちいち気使って。あたしはそんなバカみたいなことやってられない。だから1人を選んだんだよ。」
「・・・・」
そういったにあたしは何も返事をすることは出来なかった。
ただ顔に血がのぼっていくのだけがハッキリとわかった。
「まぁ、これは所詮あたしの考えに過ぎないけど。 というかフレイ、お昼食べないの?」
「あっ・・・・」
あたしが顔をあげると、上には少しだけ表情が和らいだがいた。
はもうお昼は食べ終えたらしい。
「隣、座ってもいい?」
「お好きにどうぞ。」
あたしがそう言うと返事とは裏腹には少しだけ腰を横にずらした。
「あたし、もっと考えてみるよ。」
「そう。」
の返事はそれだけだった。本当にそっけなく。
でもあたしの見たの横顔は笑っていた。
光を浴び、キラキラとして、ほんの少しだけ。
それが、あたしと彼女との出会い。
060602