ここから、全ては始まった。
そう、ここが物語りの始まりと終結の場所。
12 見上げた空は何も無い、ゼロ
「・・・朝・・?」
僅かなカーテンの隙間から入ってくる光を浴びては目を開けた。
ついさっきまで星が輝いていた空は一晩で降り積もった雪と区別がつかないくらい真っ白に染まっている。
それよりもなんでこんなに寒いのだろう。
布団に入っているなら、自分の体温で暖かいはずだ。
そう思ってふと視線を変えた先には何故か、とても輝く翡翠の瞳があった。
「おはよう、」
「・・・おはよう・・」
あぁ、なるほど。
昨日さんざん泣いたあと、自分はこの男の腕の中で寝てしまったのだ。
だからベットに寄りか係り座っているアスランの腕の中にすっぽり包まれているのだ。
「ベットまであと少しだったんだけどね。を起こすのもかわいそうだし俺も力尽きたんでね。」
「それは・・、ゴメン」
大丈夫だよ、そうアスランは言うと立ち上がり背筋を伸ばした。
「ねぇ、学校どうする?」
「あ、そうだ・・・」
壁にかけられた時計は、すでに9時過ぎを表している。
どう考えても、遅刻は決定事項だ。
「途中から行く?俺、昨日授業放棄してきちゃったし。」
「そういわれれば、あたしもだ。」
カーテンを開けながら、アスランが苦笑いしながら言った。
はぁ、とがいつもとどこか違った溜息をついた。
「朝ご飯は、購買で買えばいいよな?」
「うん。」
「、用意できた?」
「あと少し!!」
玄関口で靴を履きながら問いかけたアスランの声に奥の部屋からの声が返ってくる。
「ゴメン、もう大丈夫」
そうが言ったのを合図に、アスランは扉へと手をかけた。
少しひんやりとした、ノブの感触が気持ちい。
隣でが靴を履き終えたのを確認すると、アスランは外へと続く扉をゆっくりと開いた。
「今の授業って、何だっけ?」
誰もいない静かな廊下に、教師の声が響く教室の少し手前では急に立ち止まった。
その瞳はどこかすぐれない。
「今は確か・・世界史だと思うけど。どうかした?」
「ん・・なんでもないよ。」
そう言って再び踏み出したの手は、同じく歩き出したアスランの制服のすそをしっかりと掴んでいた。
「?」
「その・・・、アスランのこと、信じてもいいんだよね?」
「・・・当たり前だろ。」
今にも泣き出しそうな顔でアスランに尋ねた頬にゆっくりとアスランの手が添えられる。
「俺はを信じてる。」
「・・うん。」
アスランの手の上にの手が重ねられた。
それを感じるように、の瞼がゆっくりと閉じた。
そして再び光を見たその冷たい印象しかもたらさなかった瞳は、強い希望の色で染めあげられていた。
ガラガラッと、扉を開く無機質な音が静かな教室の木霊した。
教室中の視線が一気に二人に降り注ぐ。
教科書を読み上げていたフラガも一時その作業を中断し生徒たちと同じく二人を見つめた。
「おっ、仲良く遅刻かぁ?目覚ましくらいちゃんとかけろよ。」
怒られると予想し身構えた二人に、拍子抜けするくらいののん気な制裁がくだった。
説教ところか、ニヤニヤ笑っていところ何か知っているのだろう。
「ほら、早く席に着け。授業を再開するんだから。」
唖然として思わず顔を見合わせた二人に、再びフラガの声が届いた。
「さん・・・、その怪我・・・」
休み時間。
列を挟んで隣に座っていた女子が恐る恐るに声をかけた。
「あぁ、コレ・・・」
視線を上げたに少し驚いた様子だったが、は気にも留めず腕に巻かれた包帯と瞼の上に張られた湿布を思い出した。
黒板の前固まっていたフレイたちの視線がこちらを向いていた。
「昨日階段から落ちてね。何も無いところで勝手に転んだんだ。」
そういう事だよ。
そうは言うと用は無いと言わんばかりに読みかけだった本に視線を戻した。
「!!!」
が次のページをめくろうとしたとき、教室中にフレイの声が響いた。
今にも泣き出しそうな顔をしたフレイを、呆然と取り巻きたちが囲んでいる。
「その怪我、あたしが・・・」
「言ったでしょ? 勝手に転んだんだって。」
「そんなの・・・」
「あたしだって階段で転んだなんて恥ずかしいこと、あまり人には言いたくないから。もういいでしょ。」
そうきっぱり言うと、は読みかけの本を閉じて教室を出て行った。
取り残されたフレイはただ、呆然と立ち尽くした。
ゆっくりとその頬を、涙が伝った。
「ゴメンね、・・・」
「いいのか、嘘なんかついて。」
教室を出ると、扉の影に購買で買ったらしきパンを持ったアスランが立っていた。
「これでいいんだよ。別にフレイたちを咎めようなんて思っていないから。」
「ならいいだけど。 それより屋上行かない?折角パン買ったんだし。」
「雪、積もってると思うけど。」
「いいじゃないか。たまにはさ。」
そう明るく言ったアスランが屋上への扉を開けた先には真っ白な空間があった。
パンを食べるところか、座る事もできない。
「こんな日に屋上来るなんてバカだよ・・・」
「パンは昼休みまでお預けだな。」
そう苦笑いしたアスランは、パンを扉の中に置くと雪の中を歩き出した。
「制服、濡れるよ?」
「かまわないさ。もおいでよ。」
はアスランに誘われるがままに、アスランの歩いたおかげで雪が無くなった道を歩き出した。
いつの間にか、奥のフェンスまでたどり着いたアスランが手を差し出している。
がやっとの思いでたどり着いたフェンスの先には、雪に覆われた街の真っ白な光景が広がっていた。
「すごいね・・・。」
「ねぇ、。 覚えてる?俺が転校してきたばかり、ここで一緒にお昼食べて。そして俺が言った事」
真っ白な街を見下ろしながらアスランは、独り言のように言った。
「俺がの事幸せにしたら笑ってね、でしょ?」
そうさらりと言ったに驚き、アスランは視線をに向けた。
「忘れるはずないよ。本当はあのときすごい嬉しかったんだから。」
だからね、そう言ってはゆっくりとアスランの方を向いた。
「こうして、笑うことができる。」
ゆっくりと振り向いたは、笑っていた。
花のような、この世に二度とない美しい笑顔で笑っていた。
「ありがとう、アスラン」
「俺こそ・・・、ありがとう。」
雪が全ての音を消し去ったように、静かな温かな空間がそこに存在した。
しっかりと硬く二人の手は、繋がれている。
「もう一度、旅立とう。 全てをゼロに戻して。」
「うん。 ここが、始まりの場所、スタートラインだね。」
僕らは再び歩き出す。
誰も知らない、何もわからない道を。
迷っても、悲しくても大丈夫。
握った手は、絶対に離さない。
さあ、これが僕たちの旅立ちの宴。
世界は今、ゼロになる。
ゼロ、end
060505
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