雪の花














はらり、と舞い落ちていく花びら。

それは風に揺られてまるで雨のように容赦なく降り注ぐ。

まだ平泉の雪解けには早い季節で。

あたり一面真っ白な空間に舞い落ちる薄桃色の花びらは、何かの絵巻物のようでもあった。


そんな中、私は1人何をするわけでもなくその中に佇む。

意味も無く鞘から出した剣をただ、右手に下げて。

真っ白な地にたって、この剣が、この手が紅に染まる日を思い描く。




「何をしている、

「・・・・泰衡・・・」



わざとらしくゆっくり振り返れば、案の定そこには眉間に皺をよせた真っ白な雪とは正反対の黒に身を包んだ男が。

その漆黒の髪にも、花びらは降り注ぐ。


「あれだけ1人で出歩くな、と言っただろう。聞き入れてもらえないのか?」

「散歩くらい1人で行きたいよ、それに泰衡は仕事はいいの?」

「よくない。、帰るぞ。」



それが彼なりの気遣いなんてとっくに気付いている。

さりげなく歩調を合わせてくれたり、雪の上でも転ばないように気をつけていてくれたり。





それなのに・・・





「何故、泣く・・・」

「・・・泣いてない・・・」

「子供じみた言い訳はよしたらどうだ。」

「泣いてない、って・・・」




涙が溢れて止まらない。




泰衡が好き過ぎて。

失うことに脅えて。

気が付けば、もう1人では生きていけない。

それを実感して、現実が攻め立てる。




「泣くな・・・、俺は銀のように慰める言葉を持たぬ・・・」

「・・・・泰衡ぁ・・・」



少し困ったように息をついて、暖かな体温が背中を包む。

苦しいくらいにその腕のなかに閉じ込められて。

このまま溶け合ってしまうんじゃないか、という程近くに彼の鼓動を感じて。

彼の存在を、何度も何度も確認する。




「戦が始まれば誰も生き残れる保障などない・・・」

「・・・・」

「お前は・・・生きろ、・・・」

「・・・っ、泰衡!?」




春の空は透き通るように青くて。

雲さえ存在することを許さない空は、何かを映すことを拒絶した。

寂しい、孤独な青い空。

風に流されるままの花びらは行き場を失う。



「ダメだよ・・・、1人にしないで・・・・」

・・・・」

「お願い、どこにもいかないで・・・」



2度と離すまい、と思って必死で泰衡の手を握り締める。

その手は長時間外にいた自分よりも冷たくて、思わず強く握ってしまう。

・・・、と小さく名前を呼ばれて。

次の瞬間には、握り締めた手が泰衡によってまた包み込むように握り締められる。



「・・・お前を1人にはせぬ・・・」

「泰衡・・・」

「・・・約束、しよう。」



抱きしめられた背中の向こうで、微かに泰衡が笑った気がした。







070323
コブクロの"蕾"を聞いて突発的に。
鎌倉が攻めてくる直前辺りのお話。