雨が降った後には、太陽。
暖かい、温かい、太陽が。
雨上りサンシャイン
本当にちょっとした瞬間だった。
地球軍との交戦中、はミネルバの後方支援ではなくアスランやシンと一緒に前線で戦っていた。
下一面に広がる海は静かに蒼を保っていたが、頭上からはすでに土砂降りの雨が降り出している。
「3機目!!」
そう言っての目の前にいた白と赤のウィンダムは、が振りかざしたサーベルの元で凄まじい爆発とともに海の残骸となる。
「そういえば、アスランは?」
ほっ、と一息を着き、は忘れかけていた同僚、または恋人と呼ぶアスランの顔を思い出した。
前方のスクリーン越に数十メートル先で赤い機体が軽やかに飛び回っているのが見える。
そして、そのすぐ近くにインパルスの姿も。
ピ―――ッ
と鼓膜を破る勢いで敵が迫ってきたアラームが鳴った。
「えっ、うそっ!?」
ほぼ反射的に飛び上がったの機体、のすぐ脇をビームが通過する。
すぐそこでゴォーンッとものすごい音と光が落ちた。
雷だろうか。
そして、レイダーを見る暇もなく次の衝動が襲う。
「くっ・・・」
蹴りでも入れられたのだろうか。
は真っ逆さまに海へと突き落とされた。
先程自分が落としたウィンダムのように。
重力を持った地球のせいで、機体を立て直すことも出来ない。
「このっ!!」
ただ出来たのは身体にかかるGの為か、薄くなっていく意識のなかで手に持っていたサーベルを槍投げのように迫りかかる相手のコクピットめがけて投げることだった。
相
手も油断していたのか奇跡的にサーベルはコクピットに突き刺さった。
目の前で敵は爆発する。
が、運良く直接攻撃は間逃れたが、目の前の爆発の衝撃を間逃れることは出来なかった。
さらにの落ちていくスピードは速まり、機体を破損したのだろうか。
右肩に鋭い痛みが走る。
「っ!!」
そうどこかで聞こえた気もしたが、の記憶はそこで途絶えた。
*
「・・っ・・・ここは・・?」
泥沼からはいずり出たような最悪な気分で、の瞳は開いた。
聞こえるのはくぐもった人の話声と、無機質な低い機械音のみ。
とりあえず起き上がろうとごく自然な動作で身体に力を入れたその瞬間だった。
「痛っ!!」
支えにしようとした右肩からは全身に鋭い痛みが走り、後頭部は平すら鈍く痛みを出し続けている。
なす術もなくはベットの上へと戻る事になった。
「気づいたのか、?」
「・・アスラン?」
先程の物音に気づいたのだろうか。
ゆっくりと奥からアスランが顔を出した。
なんだかいつもより疲労が顔に出ている。
「ここは・・?」
「医務室だ。ケガは痛むが、すぐ直るそうだ。それより覚えてないのか?さっきの戦闘のこと。」
「あっ・・・」
次第にハッキリしてきた頭の中でフラッシュするのは激しく揺れる機体と、真横を通りすぎる光輝くビーム。
すがる想いで投げ飛ばしたサーベル。
「が海面に衝突する寸前で俺が助けた。何故戦闘中によそ見をしていたんだ?それが命取りになることぐらいわかってるんだろ?」
の横たわるベットの脇にアスランはしゃがみ込むと、視線を逸らさずにそう言い切る。
「だって・・・・」
そう言いかけての動きは止まった。
何をしていただって?そんなの本人の前で言えるはずかない。
だって、目の前にいる人物を、アスランのことを気にかけていた、なんて。
「だって・・・・」
「誰にも言えないような事なのか?」
まっすぐ、目を離さずに言う。
これは、明らかに怒っている。
「ち、違う・・・」
「違わないだろ?俺はただ理由を聞いてるだけじゃないか?」
少しだけ、アスランの声が大きくなった。
ビクッとの肩が揺れる。
「何も、何も知らないくせにそういう事言わないで! アスランの馬鹿!!」
そうは力の限り叫んだ。
身体が痛むのも構わず起き上がると、アスランがいるのにも構わず医務室の扉へと走る。
「アスランなんか大嫌い!!」
拳を握り締め、精一杯の虚勢を張ってはアスランを睨みつけた。
そして何も言わないアスランを軽蔑するように見ると、脅えたように開いた扉の向こうへと走り出した。
「一体、何をやってるんだ、俺は・・・」
そうアスランは自らを嘲笑するに笑った。
が出て行き、再び扉を閉ざした医務室の中は嫌というほど静かだった。
*
「あ、!! ケガはもう平気なの?」
「うん。大したことないからね。」
弾みで医務室を飛び出してきてしまったもの、部屋に一人というのも寂しく、結局辿り着いたのは談話室だった。
中にいるのはいつもと変わらないメンバーたち。
「それにしてもがあんなにやられるなんて珍しいよな。」
「あ、ちょっとぼーっとしてたのかなぁ・・・。最悪だよね、あたし・・・」
一番手短なソファーには腰掛けて、はぁっと息を吐き出した。
そんなの様子に、シンたちは思わず顔を見合わせる。
「ねぇ。アスランさんと喧嘩した?」
「・・・えっ!?」
ルナマリアはスポーツドリンクの入ったボトルをに手渡しながらそっと様子を伺った。
かすかにの表情が曇る。
「やっぱりね。仲直りしてきたら?」
「なんでわかったの?」
「だってが元気ないときって大抵そうだもん。それにケガしたのそばにアスランさんがいないのっておかしいでしょ?」
そんなことない・・・とぼそぼそと呟くが周囲には伝わらない。
「だって少しは心配してくれたっていいのに、いきなり怒り出すんだよ?」
そう両手でボトルを弄びながらは言った。
重々しい沈黙の中、窓の外から雨の叩きつける音だけが中に響く。
「アスランさん、心配してたよ、のこと。」
「えっ?」
それまで黙っていたメイリンがおずおずと口を開く。
「通信で聞こえたんだ。さんが落ちる寸前でセイバーから!ってさ。」
「・・・・」
「すごい焦ってたよ、アスランさん。」
そうメイリンは言うと、に向かって小さく微笑んだ。
「そう、なんだ・・・」
小さくが頷く。
「じゃぁ決まりね。、アスランと仲直りしてくること!!」
そう言ってルナマリアはを立ち上がらせる。
そして満面の笑みでを送り出した。
*
「・・・アスラン・・・」
シュンッと空気を切る軽い音がして開いた扉の先には一人柵に寄りかかって立つ愛しい人の姿。
戦闘が終わって一人になったときアスランが来る場所なんて限られている。
そして今、が立っているのは海が一望できるミネルバの甲板の上。
「・・?」
に背を向け海を見ていたアスランはゆっくりと振り返った。
そして視線の先に立つを絶望と希望が入り混じった瞳で見つめる。
「その、あのね・・・」
言わなくちゃ。そう思っては一歩前へと踏み出した。
いつのまにかあんなに激しかった雨は殆ど止みかけている。
一つ息を吸ってはアスランのもとへと歩き出した。
一歩一歩の足音が嫌に耳に響く。
ほんの数歩の距離が遠く、遠く感じた。
「さ、さっきはあんな事言ってごめんなさい・・・。何にもアスランの知らなかったのに・・・」
「えっ?」
「メイリンたちから聞いたの。本当は心配してくれていたんだって。」
そう言って目を逸らしたも、少し驚いたような顔をしたアスランの頬も微かに赤く染まっている。
「俺こそゴメン。が怪我して、もしも、俺があのとき間に合わなかったらどうしようかと思ったら・・・」
「もう、絶対余所見なんてしないから。」
「あぁ。それが一番だ。」
二人の視線が混じって、いつのまにか笑顔になる。
「でも、本当にココにがいてくれてよかった・・・」
そっと暖かいアスランの手がの頬に触れた。
どちらかとともなく静かに二人の唇が交わる。
「雨、止んだね。」
「いつのまにかな。」
「綺麗な夕焼けだね・・・」
雨が降ってもいつかは太陽が、地上を照らす。
暖かい、温かい光で。
060704
オープン一周年記念夢、第一弾です!!
いつもありがとうございます。