出逢いなんて、ちっぽけなものだった。
01 土砂降りLONERY HEART
その日は朝から、今にも崩れ落ちそうな空だった。
そろそろ秋も終わりを告げ、冬へと移り変わる季節。
それにしては尋常じゃない寒さだった。
「あっ、雨降ってきた・・・」
ポツリ、と冷たい雫が鞄を握る掌に落ちて天真は空を見上げた。
ポツン、ポツン、と雫が落ちるスピードは序所に速まって行く。
片側の手で持っていた傘を広げて、天真は再び歩き出した。
学校が終わり、早くもなく遅くも無いこの時間は殆ど人を見かけない。
いつのまにか本降りになり、アスファルトに溜まった雨を蹴りながら住宅地に差し掛かる。
そこで天真の足は、止まった。
「・・・あれ・・・、・・?」
「・・・あ、森村くん・・・?」
土砂降りの雨と、道路を挟んだ向こう側の本屋の軒下にしゃがみ込んでいたのは、同じクラスの女だった。
「お前、こんなところで何してるの?」
「・・・・、雨宿り。」
気がついたら俺は道路を渡り、しゃがみ込んだままうごかないの前に立っていた。
向こうもそんな俺の行動に驚いたらしくて、数秒ほど俺の顔を見つめたまま動きを停止していた。
「なら、本屋入ればいいだろ・・・」
「だってビショビショなんだもん・・・、恥ずかしいじゃん。」
「・・・そおか・・」
よく見ればは全身ずぶ濡れで、水を吸ったブレザーやスカートは重そうな色に変わっている。
雨に濡れ、顔や首に張り付いた髪が普段とは異なる雰囲気をかもし出していた。
俺は気まずくなって、そっと視線を外した。
「お前、どうするの?」
「えっ、何が?」
「これからどうするのか、って。」
沈黙が怖くなって、俺はとっさに話題を切り出した。
案の定、は話を聞いてなかったらしく、まぬけな声を出した。
そして、また、沈黙が訪れる。
「・・・帰ろうかなぁ・・・」
「・・・あっ・・?!」
再び、間抜けな声を出したのは今度は自分の方だった。
が黙り込むから、何かまずい事でも言ったのかと考えていた矢先なのだから仕方がない。
そんなことも知らないでは話を続ける。
「本当はね、雨止むまで待っていようかな、ってつもりだったんだけど・・・。
何か止みそうにないから帰るよ。今日、古典の課題出てるしね。」
「・・そ、そうか。」
「うん。」
そう言っては立ち上がった。
必然的に隣に立ったこいつは、思ったよりも小さい。
「お前、小さいな。」
「え、何!?」
「なんでも無い。」
驚いたように顔を上げたを見て、思わず笑いがこみ上げる。
こいつといると、どうも調子が崩れるらしい。
「これ、使え。」
「・・森村くん!?」
「明日、返せよ!」
気がついたら俺は持っていた傘をに押し付けていた。
べタな青春ドラマの真似でもしたかったのだろうか。
は何処にでも売っている透明なビニール傘を手に持ってさっきよりも驚いた顔をしてこっちを見ていた。
俺は、家とは逆の方向へと土砂降りの中走り出した。
061101