もっと貴方を知りたくて















、出かけるぞ。」

「・・・えっ!?」



冬晴れ、という言葉がぴったりという青空の日。

突然、何の前触れもなく彼は部屋に遠慮なく入ってきた。

そしていつもと変わることのない淡々とした口調でそう私に告げる。



「出かけるって何処にですか??」

「お前は黙って付いてくればいい。」

「や、泰明さん!!」

「行くぞ。」



待って、と言っても待ってはくれないのだろう。

それが彼なりの理なのだから。

それでも、困るものは困るのだ。

以前より慣れた、としても。



「泰明さん、一体どこへ・・・・」

「いずれ分かる。」

「そうですけど・・・、教えてくれたっていいじゃないですか!?」

「・・・・お前は黙るという事ができないのか。」




――――スイマセンでした。


これほどまでに単調直入な人はいないだろう。

いや、正直というべきなのか。

いずれにせよそう言われてしまった今、私には謝る術しか持ち合わせていなかった。

















神泉苑を通り越した。

仏様のように微笑んでいる永泉さんに会った。



山に登った。

泰明さんのペースは落ちることなく、私はひたすら小走りで後を追い続けた。
















「わたし・・・もうこれ以上は歩け・・・」

「ここだ、付いたぞ。」

「うわっ、急に止まらないでください!!」



まるでフルマラソンを走りきったみたいに私は疲れきっていた。

急に止まった泰明さんの背中にみごとに真正面からぶつかる。

しかし、ノロノロと顔をあげた私はぶつけた鼻の痛みも、全身の疲れも忘れていた。



「きれい・・・・」

「ここは気を休めるには適した場所だ。」

「だから景色が綺麗って・・・・」

「お前の気も休まるだろう。」



これは喜んでいいところなのだろうか。

いや、でも人の話聞いてないし・・・

それにしても泰明さんは私のためにここに連れてきてくれたのだろうか。

あんな急な坂道まで登って。



「あの、やす・・・・泰明さんっ!?」

「黙っていろ。」



眼下に広がる京と、まだ散らずに残っている紅葉の葉が織り出す曖昧なコントラスト。

時々吹き抜ける風が気持ちよくて、私は直前までその影に気付く事が出来なかった。





突然、私の目の前に現れた大きな人。

白と黒―陰陽のように対照的に染められた着物。

背中にまわる大きな手。

苦しい程に押し付けられた温かな胸。

耳元で吐息のように囁かれる、低く掠れた甘い声。





「お前といると・・・・気が休まらない・・・・」

「えっ・・・?」

「この胸のざわめきは・・・・何と表現すればよいのだ・・・」



時間が止まったようだった。

いや、このまま永遠に止まればいいと思う。

私はその呟きのような質問に答えることは出来なかった。

その代わり私が出した答えは、彼の背中を強く抱きしめる事だった。





・・・?」

「私も、泰明さんといると気が落ち着かないんです。だから私も泰明さんと同じ・・・」

「お前はそのようなとき、一体どうするのだ?」

「その人を・・・、もっと知りたいと思います。」




ゆっくりと、背中に回った泰明さんの手が緩くなった。

驚いて顔を上げれば、泣きそうな笑っているような顔をした泰明さんが私を見ていた。

言葉が、出てこなかった。




「私は、お前を知りたいと思う。」





確かにその時、泰明さんは微笑んだ。

優しい笑顔で。

それは初めてみる彼の顔だった。

また一つ、彼を知った。




「私も・・・です。」





そう言って私はまた、泰明さんの胸の顔をうずめた。

しばらくして、彼の手がまた私の背中を抱きしめた。

もっと、彼を知りたいと思った。







061126

ヲタ友の、梨音に勝手に捧げます。