thirteen














あの日は学校を早退した。

授業を続ける教室に戻ってもキラはいなくて。

家に着くまで、キラと会うことも無かった。

もしかしたら、まだ学校の中で自分を探していてくれていたのかもしれない。

まだ、そう思ってしまう自分が嫌だった。

そしてその翌日の今日。

私は学校を休んだ。

目は腫れて顔は酷い表情をしていて。

何かを感じた家族も、休む事を許してくれた。


「あの頃に戻りたいな・・・」


部屋に飾った一つの写真。

まだ小さい2人がよりそって満面の笑みで笑う写真。

もう2度と戻る事の出来ない、風景。









・・・」

「・・・何?」



ドアの向こうから母親の声がかかって、ふと我に返る。

もう夕方のためか、部屋の中はオレンジ色に染まっていた。



「キラ君が来てくれたから、あなたの部屋にお通しするわね。」

「えっ、ちょっと!!」

「私は買い物行って来るから。仲良くね。」

「待ってったらっ!!」



母親は気を利かせてのことだろう。

だが、今、どんな顔でキラに会えというのだろう。

再び、いいようのない不安が身体を競りあがってくる。


、僕だよ、キラ・・・」

「・・・キラ、どうして・・・」


扉の向こうでキラの声がする。

心なしか震えているように感じた。



、ここを開けて。君に話したい事があるから。」

「いや・・・」

っ!!お願いだから。」

「キラに会わせる顔なんてないよ・・・」



キラの声が上がる。

扉越しのもどかしい会話。

キラが小さく、と呟いた。

ピクリ、との肩が上がる。



と、その時だった。

机の上に置きっぱなしだったケータイが着信を知らせる音を鳴らす。

恐る恐るそれを手に取った。

耳に当てれば、聞こえてくるのは、キラの声。



「絶対に切らないでね。そして僕の話を聞いて。」

「キ、ラ・・・・」



震える手でケータイを握り締めて、キラに一番近い場所、扉の前に足の力が抜けたかのように座り込む。


やっぱり、自分はキラが好きなのだ。

どうしようもないくらいに。





「今、僕はの気持ちに答えることは出来ない。嫌い、って意味じゃないよ。」

「えっ・・・!?」

「今の僕は、昔が引っ越す時の僕と変わらない。それじゃダメなんだ・・・」

「・・・」

「そしたら僕はまた同じ過ちを繰り返す。が好きで、でも逢えなくて。そして僕はたくさんの間違いをしてきた。」

「・・・うん・・・」

「僕はやり直さなくちゃいけないんだ。このままの隣にいても、きっと僕はを傷つける。今みたいに・・・」

「・・・」

「僕たちはこうして2度巡り合えた。だからきっとまた、僕たちは巡りあえる。」

「・・・キラ・・・?」

「だからね、。また、逢おうね・・・」

「・・・キラッ!!!」





そして電話は切れた。

後に残ったのはツーツーという電子音と、妙な胸騒ぎ。

急いで、部屋の扉を開く。



「キラぁっ!!!」



声の限り叫ぶがもうそこに誰かがいたという跡は無くて。

ただ、静かな空間が広がっているだけだった。


「キラ、どこに行ったの、キラっ!!」


ただキラのことだけしか考えられなくて、家を飛び出す。

ただ、ひたすら、走った。

キラを追いかけて。


公園も、学校も、駅も、キラの家にも、キラはいなかった。


夕暮れだった空にはもう、無数の星が浮かんでいる。

それでも諦めることは出来なかった。




「また巡りあえる」

そう言ったキラの声が何度も何度も頭の中で繰り返される。

浮かんでは消える、キラの笑った顔、困った顔、怒った顔、眠そうな顔・・・

そして「」と自分を呼ぶ声。

胸が張り裂けそうに痛い。

涙が止まらない。


「どこにも行かないで、キラぁっ・・・・」


そう願ったの声が、星に届くことは、無かった。



070404