nine
がいない。
教室に入ってから覚えた違和感は、みごとに的中した。
誰も座っていない机。
そんなの1日に一つは教室にあるはずなのに、どうしてか嫌に焦る自分がいた。
「カガリ・・・、は?」
「あいつなら保健室だ・・・」
「・・・どうして・・・?」
「具合が悪いみたいだったから、私が連れて行った。」
カガリの声が普段よりワントーン低くなった。
明らかに何かを隠している。
ガタッ、と乱暴に立ち上がるとキラは自分を睨みつけたままでいるカガリに言い放った。
「僕、保健室行って来るから。」
「お前・・・あいつのこと、どう想ってるんだ?」
教室のドアに向かって歩き出したキラの背中に、カガリの声が刺さった。
キラの歩みが止まるが振り向くことは無い。
「カガリが知って・・・どうするの・・・」
「・・・・あいつは、はっ!!」
「僕とは、幼馴染だよ。」
それはまるで、自分に言い聞かせるように放たれた言葉のようだった。
それがどうしようもなく寂しそうに聞こえて、カガリはそれ以上の言葉を失った。
乱暴に閉じられた扉が、空しく空気を裂いた。
「、いる・・・?」
静寂に包まれた空間を壊さないように、そっと保健室の扉をキラは開けた。
保険医はどうやら留守らしくて入り口から見える机も椅子にも誰もいなかった。
一つだけ水色のカーテンが閉まっている。
そこにがいるのは、分かりきったことだった。
「入るね、。」
無礼だと分かっていても、その狭い空間へと足を踏み入れる。
気付いて欲しい気持ちと、気付かないでいて欲しい。
その2つの気持ちがぶつかり合いながらも、そっとその頬に右手を添えた。
微かに瞼が動いて、ゆっくりとが目を開けた。
キラは急いで手を引っ込める。
「・・・キ、ラ・・・?」
「気がついた、?」
「あたし・・・」
「カガリに聞いて・・・心配だから来ちゃった。」
状況がよく理解できていないような瞳にキラは笑顔で返す。
その後ろで、ありったけの力を込めて右手を握り締めた。
掌に微かに残るぬくもりを離さないように。
触れてしまった事を罰するように。
「・・・あのさ、キラはもうあの噂の事聞いた・・・?」
「・・・えっ・・・」
「ほら・・・、あたしとキラが・・・」
「うん。」
言い難くそうに語尾を濁したの言葉をそっと遮る。
まさかあたし達がね・・・、と笑って言ったの視線はどこか遠くを見つめていた。
下唇を噛んで、視線を反らすときのの気持ちは決まっている。
「・・・キ、キラ!?」
「・・・ごめん・・・。あと少しだけ、このままで居させて・・・」
気がついたら、身体は勝手に動いていた。
両腕の中にを閉じ込めていた。
なんて酷いのだろう、と思った。
が下唇を噛んで、視線を反らすとき・・・・それは泣くのを堪えてるとき。
それを知っていて抱きしめるなんて、最低な男だと自笑した。
「・・・本当に、ごめん・・・」
「・・・・」
どうしても、この両手を解きたくないと思ってしまう。
どうしても、この温もりを手放したくないと思ってしまう。
「ごめんね、・・・・」
何も言わず、キラの胸に顔をうずめたままのは、ただ肩を震わせた。
070118