three
「さん、ちゃんって呼んでもいい?」
「彼氏とかいる?」
「メルアド教えて!!」
「前の学校ってどんな風だった?」
これこそまさに転校生の醍醐味だと思う。
HRの終わりのチャイムが鳴ったと思ったとたんの席の周りは好奇心の塊で埋め尽くされた。
四方八方から声をかけられてどれに返事をすればいいのか、困る。
「ねぇ、そんなに一気に質問しても困るんじゃないかな。」
「えっ!?」
その声はまるで空気を一瞬にして変えた。
それまで騒音といっても過言で無いほどだった教室が一気に静まり返る。
そしてどこからともなくの席の周りを囲んでいた人が道を作るように退いた。
人垣が割れる。
「久しぶりだね、。僕の事覚えてる?」
「・・・キラ・・・?」
優しく微笑みながら、割れた人垣のなかから姿を現したのは間違いなくキラだった。
亜麻色の髪に、輝くアメジストの瞳。
忘れもしない、忘れることのなかった、大切な幼馴染―――
「覚えていてくれたんだ!!本当にビックリしたよ。」
「私も・・・。まさか同じ学校で同じクラスなんて・・・」
・・・それは感動の再会、のはずだった。
転校初日の今日は、予想以上に濃い一日となった。
今日最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴りは荷物を片付け始める。
「あの、さん・・・?」
「・・はい?」
名前を呼ばれて顔をあげれば、前の席に座っている子・・ミリアリアと言った人がこちらを向いていた。
そしてその隣にはピンクの髪をした、まだ知らない女の子・・・。
「これから時間ある? ちょっと話したい事があるんだ。」
「大丈夫ですけど・・・」
「よかった。あっ、私の事はミリィって呼んで。この子はミーア。」
そう言って紹介されるとミーアは小さく微笑む。
もとりあえず、引きつった会釈を返した。
「私のことはって呼んでね。」
「ここですか・・・?」
「そう。」
ミリアリアとミーアに案内されたのは学校から歩いてすぐの駅前にある小さなカフェだった。
体育館裏で転校生歓迎とか言いながら喧嘩・・・なんて物騒な事を考えていたは僅かに拍子抜けする。
「私、コーヒーね。」
「あたし紅茶。」
「・・・紅茶で・・・」
そうとうな常連らしく奥から顔を出した気のよさそうなオーナーに向かってそれぞれのオーダーを手馴れた様子で言う。
焦ったようにも、適当に頭の中に浮かんだ紅茶と言って見た。
「それで話って・・・?」
運ばれてきた紅茶の中の氷をストローで回しながら遠慮気味みは二人に話しかけた。
まさか、今まで話してきた他愛もない会話とかって言われないだろうか・・・。
「あのね・・・」
そこまで入って、突然ミリアリアは黙り込む。
嫌な予感が、した。
「ってキラ君と・・・どういう関係なの・・・?」
「キラと? 私小さい頃ここに住んでいたの。その時に仲良かったのがキラ。要するに幼馴染?」
「そう・・・、それならいいんだけど。」
一安心したようにミーアが息を吐いた。
しかしにはその主旨がどうしても理解できない。
「あのさ、よくわからないんだけど・・・」
の問いかけに二人は顔を見合わせた。
そして今度はミリアリアが口を開く。
「キラ君ね・・・、女癖が悪いって校内で有名なの・・・」
体中の血が引いていくのがわかった。
ミリアリアの声が何度も頭の中で木霊する。
あのキラが? 私より泣き虫だったキラが・・・?
「嘘・・・・」
「ゴメンね、がショックなのはわかる。でも一応言わないとって・・・、もしも、が傷つく前に・・」
「・・・ありがとうね・・・」
口が機械的に言葉を紡ぎたしていた。
そして思った。
時はこんなにも人を変えてしまうのだと。
グラスの中で溶けた氷が、カランと音を立てた。
0601001