壱
間に合った・・・、とほっと息をついた。
走ってきたため汗をかいた体に電車の車内の冷房はほどよく効いてくる。
夕方6時を回ったばかりのこの時間帯の電車はもうすでに沢山の人で溢れていた。
座れる席が無いに等しい事はわかっているが、この疲れた身体を休めたくてはキョロキョロ辺りを見回しながら、走り始めた電車の中を歩いた。
「あっ、空いてる。」
ぽつん、と一つだけ忘れ去られたように端の席が空いていいた。
シートに身体を預ければ降り積もった眠気がを襲う。
テストも終わり夏休みまであと少しだというのに、何故か学校は未だに忙しい。
「やってられないよ、もう・・・」
そう心の中で文句を言いたくなるのも仕方が無い。
向かい側の席の窓には夏の風物詩といえる稲妻が光り、車内には僅かに低音が轟く。
雨脚は先程よりも強さを増している。
それと正反対に車内はとても静かで、自然との思考は眠りに沈んでいった。
*
「・・・・・・・・」
誰かが呼んでいる。
「・・・」
脳に、身体に、直接響くような声。
頭はまるで霞みがかかったかのようにぼんやりしていて、何も考えることが出来ない。
瞼は重くてあけることが出来ないが、辺りに光が溢れていることはわかる。
「・・・・あなたは・・・?」
「我が名は大黒天。、そなたを待っていた。」
「・・・大黒天・・・」
初めて聞いた言葉なのに、何故か身体にすんなりと行渡る。
私は・・・この人を知っている・・・?
「700年の時を待った。そなたこそが我の力を宿すのにふさわしい器。」
「・・・えっ・・・?」
「、そなたに我の力を授けよう。そして、救うのだ・・・・」
「待って!!意味がわからないよっ!!」
少しずつ遠くなる声に必死で叫ぶ。
大黒天やら、器やら、700年、救えとか。
そんなのに私は関係無い。
いきなり言われても困るに決まっている。
「頼んだぞ、・・・」
そう言い残して、声は聞こえなくなってしまった。
また、の意識もそこで途絶えた。
*
「寒い・・・」
異常なほどの寒気に襲われて、は目を覚ました。
流石にこの冷房は効きすぎだろうと思う。
先程の意味のわからない夢といい、今日は一体厄日なのだろうか。
そう悪態をついては目を開けた。
「・・・・・・」
思わず言葉を失う。
瞳の先にあるのは見慣れた人に塗れた満員電車ではなく、真白い雪だった。
以上な寒さの正体はこの雪だったのだ。
「・・・っ・・・」
起き上がるにも、どうやら長い間この吹雪の中にいたらしく身体がいう事を聞かない。
ここで、死んでしまうのだろうか・・・
いきなり季節が変わって、おまけに凍死するなんて冗談ではない。
けれど、自然に逆らうこともできずにだんだんと頭が重くなっていく。
「・・・貴方は・・・」
閉じかけようとしていた視界に、降り積もる雪の白とは対象の黒が写った。
すっかり冷え切った頬に当たる手はとても暖かい。
どうやらそれは人のようで、何か自分に話しかけている様だった。
「・・・あなた・・・・神・・・、か・・・」
「・・・わたし、・・・は・・・」
目の前の人が何を言ったのかわからなかった。
自分が何と返したのかさえわからなかった。
の意識は再び、混濁の中へと引きずり込まれていった。
070402