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これはデートという言葉で片付けていいのだろうか。
あの日、家まで送ってくれたシンと別れて、いつもの通りメールをして。
そして気がついたらいつのまにか約束の週末となってしまった。
「もっと、お洒落した方がよかったのかなぁ・・・」
ショッピングウィンドウに移った自分の姿を見て、つくづくそう考えてしまう。
自分の周りを歩く人たちの方が、自分より何倍もお洒落に見えてしまう。
「って、デートじゃないのに!!」
教科書や参考書が入ったバックを持ち直して、は必死に首を振って否定した。
そんなこんなをしているうちに約束の場所、駅前に着いてしまう。
「シン、いるかな?」
休日だからか、いつもより混んでいる中でシンを捜すのは思ったよりも大変だろうと思ったがその考えはアッサリと打ち砕かれた。
「シン・・・っ・・・」
端の方にある壁に寄りかかっている彼はいとも簡単に見つかった。
スラリとした黒のボトムに、袖なしの白のカットソー。
一見シンプルすぎるように見えるそれは、微妙な小物使いと些細なアクセントにより輝いて見れた。
そして簡単にシンを見つけることが出来た一番の要因。
それは周りの人たちの視線だった。
本人はまったく気にしてはいないが、女性がシンの前を通るたびに小さな歓声が上がっている。
「なんか、帰りたくなってきた・・・」
思わず、そうがぼやいたときだった。
「!!」
「し、シンっ!!」
後ろから肩を叩かれ、は尋常ではない勢いで驚く。
「ど、どうかした!?」
「え、なんでもないからっ!」
「・・・・・」
「あの、シン?」
突然、なんの前触れもなしにシンは黙りこくった。
不思議に思ったは、シンの顔を遠慮なしに覗き込む。
「えっ、あっ、なんでもない、ゴメン!!」
「ならいいんだけど・・・」
言えるはずないだろう、しかも本人の前で。
私服姿が可愛すぎて見とれていました、なんて。
「じゃあ、行こうか?図書館。」
「うん。」
蒼く晴れた空の下を二人は、並んで歩き出した。
*
「あの、シン・・・?」
「何?」
冷房が程よく効いていて、でも窓から光が満遍なく入り込む。
図書館という静かな場所のせいか、心なしか顔が近い距離ではシンに話しかけた。
自分のノートから顔をあげての方を見れば、彼女の視線はゆっくりと目の前にあるテキストに落ちていく。
「この問題・・・、教えて?」
「あ、これはね・・・」
ちょっとだけ自分がより年上だったことや、それなりに勉強が出来たことに感謝した。
スラスラと軽いタッチで書かれていく数式に、は感心する。
「こうなるから、あとは公式を使えば・・・」
「なるほどね。ありがとう、シン。」
そう言ってが向けた笑顔に思わず頬の筋肉が緩む。
この時間が永遠に続けばいいのに、と心から願った。
問題が一段落して、ふと視線を隣に座るへと向けた。
白い、綺麗な指がシャーペンを握って問題を解いていく。
テキストを見れば、先程自分が教えた問題の応用で、は手を止めることはない。
『ってああ見えて、頭いいのよ。うちの学校を外部受験で特待とるほどだからね。』
いつの日か、ルナマリアがそう言っていた気がした。
確かに、頭がいいというのは一目で理解できる。
「シン・・・?」
「あ、って頭いいよね。」
「全然!!あたしより頭いい人なんてたくさんいるよ!!」
確か青蘭の特待条件は、主席キープだったような気もするが・・・
「そんな事無いって。」
「そうかなぁ、でもねあたしシンもだけどお兄ちゃんのこと絶対抜かしたくて。」
「お兄ちゃん?」
「そう。キラ、って言うの。キラ・ヤマト。知らない?翔高のバスケ部なんだけど・・・」
開いた口がふさがらないというのはこういうことなのだろうか。
もう一度だけ、シンはに確かめる。
「それってアスラン・ザラとテストのたびに主席争いして、あのすっごくモテる人・・・」
「モテるかはわからないけど・・・、アスランとは仲いいよね。」
「あ、アスラン!?」
「アスラン? お兄ちゃんと一緒に小さい頃はよく遊んでもらったんだ。」
恋に障害はつき物みたいです・・・
060725