8
「で、最近シンとはどうなの?」
「えっ!? どうって、普通ですよ・・・」
部活の帰り道。
そろそろ夕日が傾いてくる頃、ルナマリアは突然話題を振り出した。
の顔が夕日にも負けないほど、真っ赤に染まる。
「普通ねぇ。デートとかしたの?」
「す、するワケないじゃないですかぁ!!」
「冗談よ、冗談。だってってホント、からかうと面白いんだもん。」
「先輩っ!!」
アハハハッ、と大笑いするルナマリアをは不貞腐れたように見ると、まだ笑いの収まらないルナマリアを置いて歩き出した。
そんなも可愛いな、と思い謝りながらルナマリアはの後を追いかける。
「でもシンって結構奥手な癖して、何気にモテるのよね。」
「そうなんですか?」
「うん。あたし、中学までずっと一緒だったけど回りにたくさんいたわよ、シンの事好きって言う人。」
「・・・じゃあ、シンは、やっぱり彼女とかいました・・・?」
「それがね、鈍感すぎるのよアイツ。告白とかも無意識のうちにスルーしちゃってね。彼女は無しってワケ」
へぇ、と感心しつつもどこか安堵感を出すを見てルナマリアはそっと微笑んだ。
「どう、参考になった?」
「参考って・・・、まぁそれなりに・・・」
「ならよかった。頑張りなさいよね、! じゃあ、また明日。」
「はぁい・・・。」
二股に分かれている道をルナマリアは右に、は左にそれぞれ分かれる。
少しだけひんやりとした、夏の風が吹いた。
*
「あれ、・・・?」
それは、正真正銘の偶然だった。
ちょっとした友達の付き合いで、いつもより遠回りの道を選んだシンの前に見覚えのある姿が映し出される。
青蘭の制服に、校章の入ったバック。
夕日に彩られてはいるが、あの髪色とあの雰囲気の持ち主はしかいなかったはずだ。
「?」
自転車をグッと前に押し出して、顔を見れば間違いなくそれはで。
「えっ、シン!?」
驚いたような顔をして横を向いたに、初めて俺が送ったメールを見たときもこんな顔したのかなっとのん気にも思う。
「よかった、本当にだ。」
「あれ、ってかシンって家こっちなの?」
人違いじゃなくてよかったと思うシンに対して、未だには状況がよくわからない。
「まぁこっちって言えばこっち。今日は友達に付き合ってたから遠回りなだけ。」
「あっ、そうなんだ・・・」
そう、少し残念そうに言うに俺は期待してもいいのだろうか。
「どうせなら一緒に帰らない?送るよ、俺。」
「えっ、いいの?」
「もちろん。」
それは勇気を一年分、前借したようなほど重要な事だった。
心臓の音が嫌に煩く感じる。
そして二人の間に長い沈黙が流れた。
どうして、こういうときに限って話題というものは出てこないのだろう。
自転車のカラカラとタイヤが鳴る音が、耳に響く。
「そういえばさ、シンの学校の期末テストっていつ?」
それは天の助けのように思えた。
隣でが小首をかしげてシンに尋ねる。
「えぇと、確か再来週の火曜日から。4日間もあるんだよね。」
「あ、あたしのところもだよ!! 一緒だね。」
そう言って笑ったのつられてシンも、微笑んだ。
それまでの緊張が嘘のように解けていく。
「期末って範囲広いから、俺嫌い・・・」
「言えてる。それに成績にも影響するからね・・・」
はぁ、と二人同時に溜息をついて、思わず顔を見合わせて笑う。
「ねぇ? 図書館行かない?」
「図書館?!」
それは半分捨て身のような誘いだった。
の瞳が驚きで見開かれる。
「あっ、無理ならいいんだけど・・・」
の表情を見て、シンは慌てて付け加えた。
「嫌、全然・・・。うん、行こう、図書館!!」
そうは、再び赤くなった顔で告げた。
シンの不安そうだった顔に笑顔が戻る。
「じゃあ、詳しいことはメールするね。」
「うん。」
そうして二人は、残り少ない道を歩き出した。
消えかかった太陽が、二人の道を静かに照らしていた。
060724