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「なぁ、初めて送るメールってなんて書けばいいと思う?」

「・・・さあなぁ。始めまして、とか?」

「初対面じゃないの!」



ケータイの画面を見つめ机につっぷしたままシンは唸った。

午後の教室に開いた窓から暑い日差しが入り込む。

シンの前の席に座り、ゲームに夢中になっているヨウランは気のない声で答えた。



「あぁ、あのバスケの試合に来てた大人しい子?」

「・・・!!」



予想的中なシンのリアクションにやっぱりそうか、とヨウランは満足気に頷く。



「お前ら、もう顔なじみなんだろ? ならデートにでも誘えよ。」

「んなこと出来るか!!」



シンの怒鳴り声が教室に響いた。




    *




『初めまして、は変だよなぁ。初対面じゃないし・・・
やっぱり無難にシン・アスカです、がいいのかなぁ・・・』



長い、長い午後の授業が始まり、シンは頬杖を突きながら空を眺めていた。

時々、怪しまれぬようにノートをとるのを忘れない。

机の下で、バレないようにケータイを弄ぶ。



『ルナにアドレス聞いた、って言ったほうがいいよなぁ。』



何度も同じ道をグルグルと回っている気もする。



『こうなったらどうにでもなれ、だ!!』



丁度、窓から風が吹いたのと同時だった。

シンは小さく握りこぶしを握り締めると、机の下でスッキリとした様子でメールを打ち始めた。





  Sub>>久しぶり
   シン・アスカです。
   ルナマリアからのアドレス教えてもらったのでメールしました。
   迷惑じゃなかったらメールしませんか?





自分でもアホな出来だと思った。

どうせコレくらいしか自分には出来ないよ、と開き直るしかない。

黒板の前に立つ教師が、重要なポイントらしきところを説明している。

でも、今シンにとって一番重要なことはこのメール以外に無かった。


送信ボタンを、震える手で押した。

送信中・・・と馴染みの画面が現れ、数秒後には送信完了と告げられる。

もう、後戻りは出来ない。



   *



『メール?』



ポケットの中で揺れるケータイに気づいたは、教科書から視線を上げた。

教師が説明に夢中になっているのを確認すると、そっとケータイを開く。



『知らないアドレス・・・』



新着メールという蘭に記載されていたのは、見覚えの無いアドレスだった。

しかし件名には「久しぶり」と書いてあり、どうも悪戯には見えない。

は慣れた動作でメールを開いた。



『シン、から!?』



それは予想出来るはずもない人物からだった。

と同時にルナマリアということから、だいたいのことは理解できた。

しかし、少しずつ頬の筋肉が緩むのは隠す事が出来ない。




  Sub>>久しぶりです^^
メールありがとう。ちょっと驚いたけどね。
    私もシンとメールしたいです。
    これからよろしくね




ちょっと地味かな、とは思ったが最初なのでと納得する。

そしては迷わず送信ボタンを押した。

送信されたのを確認するとケータイを再びポケットに仕舞う。


蒼い空の向こうに、シンの笑顔が見えた気がした。




060721