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忘れられなかった、あの人と初めて会ったときのこと。
初めて一人でお店を任されて、初めて来たお客さん。
私と同じくらいの歳で、赤い瞳を恥ずかしそうに伏せていたあの人。
名前を聞く事愚か、所詮店員とお客様という関係にしか過ぎず事務的な会話しか出来なかった事。
「貴方みたいな花ですね。」
その一言が頭から離れなかった。
花を片手にゆっくりと遠ざかっていく背中。
もうきっと二度と出会うことなんてないんだろうなぁ、って想いながらもどこか期待している自分がいた。
そして、あまり乗り気ではないがやって来た隣の男子校のバスケットボールの大会。
そこに、彼がいた・・・
*
「じゃぁ、今日の試合はこれで終わりだから・・・」
鈴城高は一回戦、二回戦と順調に勝ち進み気づけばもう夕暮れとなっていた。
他校の生徒はもう帰路についており、体育館の中にいるのは鈴城の生徒と、とルナマリアだけだった。
終わりを告げに来たシンの横顔は窓から入る夕日に染まる。
「シン、今度見に来たときはちゃんと試合に出てなさいよね。」
「しょうがないだろ、今日は3年生の引退試合なんだから。」
「だったらなんであたし達を呼ぶのよ。」
勝手に来たのはそっちだろ・・・、と小さくシンは悪態をつくがルナマリアに睨まれて黙り込む。
「じゃぁ、帰ろうか。明日は学校だしね。」
「そうですね。」
じゃあね、とルナマリアはヒラヒラと手を振って歩き出した。
が、何を思ったのか急に止まるとシンが立っている方へと戻り出す。
「先輩?」
「すぐに終わるから!!」
「・・・わかりましたぁ・・・」
ルナマリアはシンの前に立つと、遠慮なしにシンのユニフォームのポケットに手を突っ込んだ。
そして、何かを笑顔で耳打ちする。
シンの顔が、夕焼けのように赤く染まった。
「さぁ、用事は済んだ!! 帰るわよ、」
「あ、はい・・・」
歩き出したルナマリアを追うようにも足を踏み出すが、後ろを振り返った。
まだその場に立っているシンと、視線が交わる。
「シンが出る試合、楽しみにしてますね。」
「えっ、あ、ハイ!!」
そうほんのりと赤く染まった顔では笑って言った。
シンは何かにはじかれたように勢いよく返事をする。
「、置いて行くわよ!!」
「あ、ゴメンなさい!!」
遠くからルナマリアが叫ぶ声には反応すると、そのまま振り返らずに走り出した。
どこか、明るい顔で。
*
「ねぇ、?」
より少し前を歩く、ルナマリアがまっすぐ前を向いたまま言った。
日が沈むのは早く、先程まで夕日が輝いていた空は暗く、街灯が点き始めている。
「何ですか??」
「シンのこと、好き?」
「・・・えぇっ!?」
いつもとは違い、静かにかけられた言葉に反応しての表情も厳しくなった。
が、そう言って振り向いたルナマリアの顔は満面の笑み。
「ふーん。そうなんだ、それはよかった・・・」
「えっ、いったい何のことなんですか?」
今日何度目か、赤く染まった顔で恥ずかしさを紛らわすようには叫ぶ。
「気にしなくていいのよ〜。誰にも言わないからね。」
「あたしが気になります!!」
「そう言わない。まぁ、これからを楽しみにするのね。」
そう不可解な言葉を並べてルナマリアは再び歩き出した。
よく理解できなかったは、立ち止まったまま考える。
「ほら、置いてくわよ、!」
「あ、待ってください!!」
そう言って走り出したは、ルナマリアの隣に並んだ。
二人分の影が道路に長く、長く伸びていた。
060712