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「ねぇ、?」

「何、お兄ちゃん?」



扉を叩く軽い音とともに開いたドアを後ろ手で閉めながらキラは部屋の住人に声をかけた。

シャープペンを片手で持ったまま、は椅子ごとクルリと振り返る。



「明日、僕らの学校で試合やるって言ったっけ??」

「言ってないかなぁ。でも、ルナ先輩に誘われたから見に行くよ。」



キラは、綺麗に整えられたベットの端に腰掛ける。

机の端に置かれた参考書を無造作に取り上げた。



「そうなの? じゃぁ、僕の活躍ちゃんと見てね。」

「ねぇ、アスランも出るの?」

「一応レギュラーだからね。 でも僕の方が絶対に上手いから!」

「わかってるって、お兄ちゃん。」

アスラン、の名が出たとたんに表情を曇らせたキラを慣れた手つきでなだめたは、キラの手からひょいっと参考書を取り上げた。



「じゃぁさ、お兄ちゃんの活躍ちゃんと見てあげるからこの問題教えて?」



そう言って問題を指差した可愛らしい妹に、少しだけ笑みをこぼすとお安い御用といわんばかりに立ち上がった。



「もちろんだよ、。」






   *






「ほら、シン。元気出せって。」

「・・・うん・・・」

「そうだよ。その子が試合見にくる可能性だってゼロじゃないんだから。」

「・・・うん・・・」



体育館の隅っこに居座っている迷惑な住人を慰めようと、ヨウランたちは出来る限り優しい声をかけたつもりだった。

3年生の引退最後の試合となる予選の今日、試合会場の一つとなっている鈴城の体育館は大いに賑わっていた。



「ホラ、いろんな高校から女の子だって来てるんだぜ?」

「その中にあの子が居るわけじゃないだろ。」

「そ、そうだけど・・・」



落ち込んでいる友達を励まそうとして善意でかけた言葉は、あっさりと返ってきた。

言い返す言葉がなく、困り果てたヨウランをよそにシンはようやく立ち上がった。



「シン!?」

「もういいよ。どうせ見つかるはずなんてないんだから、それに最初から諦めついてたし。」



そう言ってシンは歩き出す。

その背中には哀愁が嫌というほど漂っていた。





   *





「なぁ、俺たちの試合まだぁ・・?」

「この調子なら今日ギリギリで来るかこないかだな。」



体育館二階の柵越しに、下で行われている3つの試合を見ながら気の抜けた声が響いた。



「俺、もう飽きた・・・」

「そんなこと言うなって。先輩に怒られるぞ?」




はぁ、と溜息が当たりに広がる。

そんなときだった。



「シン、お前に客が来てるぞ。」

「客?? 誰だよ?」



二階へと上がる唯一の階段から顔を出したのはレイだった。



「・・・」



レイの口が訪問者の名前を告げようとしたときだった。

陽気な明るい声が当たりに広がる。



「シン!! 久しぶり!!!」

「ル、ルナマリア!?」



レイの静止をよそに、我が物顔で侵入してきた幼馴染はその場に根の生えた木のように立っているシンの肩をバンバンと叩く。



「どうしてここにいるの!?」

「レイとメールしてたら試合があるって言うからさ。見に来てあげたのよ。」

「うそっ!?っていうか1人で?」



ルナがレイとメールをしていたという事実に驚き、さらにレイがメールをすることにも驚く。



「まさかぁ。あたし1人で男子校に乗り込む勇気なんてないわよ。だから可愛い後輩を連れてね。」

「後輩?」

「ほら、そこで亜麻色の髪の人と話してる子。っていうんだけどこれが本当に可愛くてさ。」



そう言ってルナは一階の入り口付近で話している二人を指差した。

1人は鈴城のユニフォームを着て、もう1人は目の前の幼馴染と同じ制服を着ている。


「ルナ、あの子・・・」

・ヤマトよ。テニス部の後輩で一年生なんだけどあたしと仲良くてね。」

「あの子、花屋?」

「家は花屋やってるけど・・・。っていうかなんで知ってるの?」



ルナマリアの疑問は思いっきりスルーされていった。

間違いない。

こちら側を向いて話しているという女の子。

蜜色の髪に、亜麻色の瞳。

忘れもしない、あの花屋の子 ―――



「見つかった・・・・」



060617