3
「、おはよう。」
「あ、先輩。おはようございます。」
青蘭女子と書かれた学校の目の前にある信号でと呼ばれた少女は振り返った。
蜜色の髪がさらさらとなびく。
そんなを見ながら声をかけた張本人のルナマリアは周りから微かな視線を感じた。
少しだけ辺りを見回したがどうせこの信号の坂の上にある鈴城高の人たちだろうと思い、男という生き物の少しだけ溜息が出た。
「ねぇ、?今度の日曜日開いてる?」
「えっと、多分大丈夫だと思いますけど・・・」
突然話題を振り出したせいか、語尾に少しだけ疑問を残して小首をかしげるこの姿は、女のはずのルナマリアから見ても可愛らしい。
「どこか行くんですか?」
「そこよ。すぐ上。」
「え、鈴城!?」
信号が青になりぞろぞろと横断歩道を歩き出した人の波に流されたはルナマリアの指差した方を見て思わず立ち止まった。
青蘭の正門から、青空をバックに見える大きな建物。
国立大学の付属として建てられた、有名男子高だった。
「そう。あたしの友達がバスケ部でさ今度試合見に行くって約束しちゃったんだけどさすがに一人はね。」
気が引けるでしょ・・・、と天気の話をするみたいにルナマリアは言う。
「えっ、っていうか彼氏ですか?」
「とんでもない!!ただの幼馴染よ。」
のひとした質問にルナマリアは勢いよく首を横に振って否定する。
「じゃあ、詳しいことはあとで連絡するね。それじゃ、部活で!!」
そう朝からエネルギッシュに輝く太陽顔負けの満笑顔で言うと、ヒラヒラと手を振りながらルナマリアは下駄箱へと消えていった。
「あたし、行くって言ってないし・・・」
ポツッとは呟くと、少しだけ涼しい下駄箱で上履きをパタンと床に落とした。
右側の上履きだけが、横に転がっていった。
*
「シン・・・、シン・アスカぁぁ!!!」
蒸し暑い体育館の中で、ヨウランは一点を見つめてまったく動かないシンの頭を叩いた。
「いてぇ!!」
バスケットボールのバウンド音と、シンの叫び声が重なる。
「なんだよ、ヨウラン・・・」
「なんだよ、じゃねぇよ。さっきから練習もしないでボーっと立っててさ。」
ふてくされたような顔を上げたシンを、ヨウランは軽く睨む。
「ヨウラン、俺・・・」
「何!? いきなり・・・」
さっきまでの表情を一転させ急に神妙な顔つきで話しだした友達に、ヨウランは軽く後ずさった。
「俺・・・、好きな子出来た・・・」
「・・・・・」
そう頬をうっすらと赤くして告げたシンは、目の前で口をあんぐりとあけて静止しているヨウランの肩を思いっきり叩く。
「今、なんて言った!?」
「は、恥ずかしいんだから何回も言わせるなよ!!」
ヨウランはシンの肩を掴むと、ガシガシと揺すった。
誰かが投げたボールが綺麗にゴールに吸い込まれていく様子が見える。
「そうか・・・。とうとうシンにも春が来たか・・・」
「マジで!? で何処の学校なの、その子?名前とかさ。」
まるで父親のように一人頷くヨウランの脇から興味津々という様子で首を突き出したのはヴィーノだった。
後ろにはレイもいる。
「聞いてたのかよ・・・」
「お前の声が、むやみに大きいからだ。」
レイの厳しい突っ込みが入った。
「それがさ、わかんないんだ。」
「「わかんない!?」」
小さく呟いたシンを、取り囲んでいた奴らは信じられないという様子で見る。
「その、一目惚れだったんだ。買い物を頼まれて花屋に行ったらその子がいて。だから何も知らなくて・・・」
「じゃあ、もう一度その店行けばいいじゃん??」
当然のような感じで言ったヴィーノの言葉に、ヨウランとレイは頷く。
「花屋なんか行く用事無いし・・・」
「そうだよな・・・。どんな子だったの?」
「蜜色の髪で、色が白くて。 可愛くて優しそうな子だった・・・。」
そっと大切なものを扱うようにシンは思い出しながら言った。
「どこの花屋?」
「あの歩行者専用の道路がある商店街のところのやつ。」
場所ならわかるけど・・・、と一斉に言う。
手がかりはゼロだった。
足元に転がってきたシンの投げたボールは、リングに当たり、下に落ちていった。
060527