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「あの、どうかしました?」



ただ一点を見つめて立ち尽くしているシンに、花屋の女の子――はおずおずと声をかけた。

邪魔をしてしまったかな、と不安になる。



「えっ、あ、なんでもないです。」



あなたにみとれてました―― なんて言えるはずもなくシンは焦りながら首を思いっきり横に振った。

そんなシンの姿を見て、少し笑ったの顔がまた可愛くて、シンは自分でも顔に血がのぼっていくのが手に取るようにわかる。



「それで、どんなお花をお探しですか?」

「あ、誰かに渡すとかではなくて・・・。部屋に飾る、みたいな・・・」



理由はわからないが、こうして説明することが物凄く恥ずかしく感じた。

自然と口調は、何かを弁解するようになっていく。



「何か、ご希望の花とか色はあります?」

「いや俺、花とか全然知りませんし・・・、全部お任せします!!」



だんだん自分が何を言っているのかさえわからなくなってきていた。

滝のように先程から流れ出る汗を、照りつける太陽のせいにしてシンは立っていた。



「そうですねぇ・・。こんな感じの束とかはどうですか?」



少し迷って、が指差したのは華やかだが洗練された落ち着きのある花束。



「なんか、あなたみたいな花ですね。」

「えっ・・?」



思わず口を飛び出た言葉に発したシン自身も、言われたも驚いたように視線を交わらせる。



「あ、いや、気にしないでください!!」

「・・・はい・・・」



シンは取り繕ったように笑顔を浮かべて、全身で否定した。

納得したようなしてないような微妙な表情を浮かべて花束を包みだしたを見て、そっと冷や汗を拭う。

そして財布から出したお金とともに、手をもう一度Tシャツで汗を拭った。



「どうぞ。お金は丁度ですね。」

「はい。」



代金と引き換えに渡された花束か、それともあの女の子からか。

とてもいい匂いがした。





「それじゃぁ・・・」

「ありがとうございました。」



花を片手に、の声に後ろ髪ひかれる思いでシンは店を出ると溜息をついた。

振り返りたくてもまだあの子がこっちを見ているような気がして、シンの鉛のような足は勝手に前へと進んでいった。

もう会えないのかという気持ちがどんどん胸を占領する。

自分は一日にたくさん訪れる客の一人でしかないのだろうか。


シンは空を仰いだ。

高々と空に上り輝いている太陽が憎らしく感じた。



060525