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「ねぇ、?」

「何、お兄ちゃん?」



リビングのソファーに座り、テレビを見ているに後ろからキラは話しかける。



「シンの事、好き?」

「・・な、何言ってるの!?」



突然の質問には振り向く事もなく、隣に置いてあったクッションをギュッと握り締めた。

キラが後ろで微笑む。



「そう。それなら・・・よかった。」

「・・何?変なお兄ちゃん・・・」



どこか安心したようにキラは笑う。

そして、静かにリビングから立ち去った。



『お幸せにね・・・』



そっとキラが呟いた言葉はには届かない。

そんなキラの後姿をは、階段の上へと消えるまでずっと見つめていた。







    *







太陽は殆ど地平線の向こうへと姿を消し、帳が当たりを支配し始めている。

そんな中をは一人、歩いていた。

制服のスカートが歩調と一緒に揺れ、蜜色の髪がサラサラとなびく。
 



   >>部活が終わってからでいいから、俺の学校に来てくれない?
     正門で待ってるから!!





そんな半ば強引なメールが届いたのは、つい2時間ほど前。

コレといって断る用事もないしどうやらただ事では内容なので、は了承のメールを送るしかなかった。

そして今、部活が終わった6時過ぎ一人、シンの通う学校、翔高へと続く道を歩っているのだった。

辺りには決して自分の学校の制服も少ないわけではない。

しかし、気分的にかやはり視線は気になるものがあった。






っ!!」

「シン!!」




正門がようやく見えてきたところで、待ちきれなかったという様子の制服姿のシンが手を振っていた。

もう片方の手には鞄を持って。



「ゴメンね、わざわざこんなところまで。本当はちゃんとの事迎えに行きたかったんだけど・・・」

「大丈夫だよ、それにシン、なんか急いでいる様子だったからね。」



だから、と言ってはニッコリ笑った。



「それで、用事って何?」

「よ、用事ね!! いろいろ、そういろいろあるんだ!!」



ボトッ、とシンの手から鞄が滑り落ちた。



「と、とりあえず、こっち来て!!」

「えっ、ってシン、学校入っちゃうよ!!」



シンはの腕を掴んで、学校の中へとどんどん入っていく。

聞く耳持たずという様子なシンを止める事は出来なくて、ただはシンの後に従うしかなかった。

だんだんと細くなる道なき道を、シンは歩いていく。



「ねぇ、シン? 一体何が・・・」

「待って、あと少しだから。」



どんどん低くなる木の枝をくぐり、歩くとようやく目的の場所に達したのかシンは歩くのを止めた。

どうやらその先は、開けているらしいがシンの背が高くて、からは見えない。



「ねぇ、? 目、瞑って?」

「えっ!?」

「いいから、ほんの少しだけ・・・」

「うん・・・、コレでいい?」



恐る恐る目を瞑ったの手を、シンはそっと握りなおす。

そして、自分の身体を一歩右にずらし、ゆっくりの手を引いた。

一歩、一歩、の足が前へと踏み出す。



「目、開けてみて?」

「うん・・・・」



ゆっくりとは瞼を上げた。



「綺麗・・・・」



無意識に漏れた感嘆の声の先にあるのは、眼下一面に広がる自分が住む町の風景。

それが、今は夜の闇に紛れネオンが光る幻想的な世界へと一変していた。



「この間、偶然この場所を見つけたんだ。 すっごい景色が綺麗だから、どうしてもに見せたかったんだ・・・」

「うん、本当にありがとう、シン!!」

が喜んでくれたなら、それでいいよ。」



花のような笑顔を向けたに、シンはまっすぐ視線を向ける事が出来ない。

それでも言わなければいけなかった。

結果がどうであっても、この気持ちを。




「あのね、。もう一つだけ言いたいことがあって・・・」

「・・なに?」




景色に見とれていたは、まだ余韻が残る顔でシンを見上げた。

お互いの顔を僅かに降り注ぐ月の光が照らす。




「初めて、俺たちが会った日って覚えてる?」

「もちろん。シンが、あたしの家に花を買いに来たときでしょ?」




そう言って不思議そうに笑ったの手をシンはそっと握る。




「俺、多分そのときからだと思う。 ずっ・・っずと・・・、と、一緒にいたいって思ってた!!」

「・・・・シン・・・!?」



「だから、その・・・・俺・・・、の事大好きですっ!!!」




そっとの手を握る手に力が篭った。



「私は・・・」



シンの手にの手が重なる。



「私も・・・、シンのこと大好きだよ・・・」




そう言って視線を上げたの瞳とシンの瞳が交わった。

月光と共に心地よい沈黙が流れる。



「よかった・・・。本当によかった・・・・」

「私も・・・」



そっと、シンの腕がの背中へとまわる。



「なんか、運命みたいだね、私たち。」

「運命なのかもな。」











ずっと忘れないよ。

肩越しに見上げた空、光の雨。

溢れかけた涙も。






僕等が出会ったのは運命。

僕等が結ばれたのは必然。






君に出会ったとき、僕は君に恋をした。





060803 完結