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「お兄ちゃん、 お兄ちゃん!!」
「・・・なんだよ・・・」
週に一回しかない折角の日曜日。
何の予定も無い日なのでお昼まで寝ていようと企てたシンのプランはあっけなく崩れ去った。
「煩いな、宿題ならあとでいいだろ、マユ?」
「宿題じゃないよ。お母さんが呼んでるよ?」
そう言ってバタバタと部屋を出て行く妹のマユを横目で苦々しげに見ると、シンはまだ布団にいたいと欲求する体を無理やり起こした。
ベットの脇のカーテンを開くと、梅雨晴れというか、真夏な雰囲気をかもし出している空と太陽が溢れんばかりの光をおしみもなく注ぎだしている。
「まだ寝てられたのに・・・」
規則正しい音を刻む時計は10時過ぎを指していて。
あと1時間は寝れた・・・。
と思いながらシンは布団から抜け出した。
「あら、おはよう、シン」
「・・・用事って?」
リビングの扉を開くと、掃除機を片手にさわやかな笑顔で母親が出迎えた。
冷蔵庫から麦茶を取り出して、眠気を追い払うように一気飲みする。
「あぁ。そんなこと言ったわねぇ・・」
「だから・・、何なの!?」
あくまでマイペースな母に痺れを切らしたシンが、イライラと声を荒げる。
「今日ねお客さんが来るんだけど、急で何も用意してなくて。だからお花を買ってきて欲しいの。」
ホラ、なんか寂しいでしょ?と呟く。
「花って・・・。第一俺じゃなくてマユでもいいだろ?」
「マユは、お友達と遊ぶんですって。いいわね、シン?」
扉の影に身を潜めて笑っているマユをシンは睨むと、有無を言わせない口調の母の言葉にただ頷くしかなかった。
「じゃあこれお金ね。この金額の範囲のものにするのよ。」
「わかりました」
殆ど機械のように答えたシンは、しぶしぶ外へと繰り出すのだった。
*
ついこの間まで滞在していた梅雨が過ぎ去り、遮るものが何一つない青空からこれでもかといわんばかりに太陽が降り注ぐ。
見慣れた道路を自転車で渡り、日陰になっているせまい裏道へと入る。
静かな住宅地の複雑に入り組んだ中を行くと、地元のメインストリートとなる明るい場所へと出た。
『歩行者専用』
の少し錆付いた看板の隣に自転車を止めて、小さな川沿いに出来たまだ新しい道をシンは歩き出した。
生垣の向こうには色とりどりの花が咲いている。
少し先にある公園からは、楽しそうな子供のこえがする。
それでもシンの心は、曇り空のままだった。
「はぁ・・・」
母にしっかりと言われた店の前に立つと何故か溜息が出た。
急に自分がウドの大木や、テクノボウと言われる存在になった気がした。
目の前には綺麗に花を咲かせた束がたくさん、美しく並べられている。
「あっ、いらっしゃいませ!」
これから1ヵ月分くらいの勇気を振り絞って、シンが足を踏み入れようとした瞬間どこからともなく声が聞こえた。
「えっ・・?」
しかし、周りを見渡しても人らしい人物は見当たらない。
さっきから背中の向こう側で歩く人たちの視線が、すごく気になる。
「ごめんなさい、ここです。」
戸惑ったあげくにバカみたいな声を出したシンのあせりが伝わったのか、再び声がした。
小さいが、澄んでいてどこまでもよく通りそうな心地のよいソプラノの声。
そして、右奥にある大きな植木鉢から、ひょっこりと女の子が姿を現した。
「えぇと、どんなお花をお探しですか?」
フワフワとした蜜色の髪に、亜麻色の澄んだ瞳。
少し大きめのエプロンから伸びるスラリとした透き通るように白い手足。
犯罪的に可愛い笑顔。
「あっ・・・え・・」
神様なんて信じた事なかったけれど。
これが一目ぼれっていうやつなのでしょうか?
だとしたら俺は、この子に会わせてくれたことを感謝します。
シンは、ただその女の子を見つめた。
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