「・・・移動、ですか・・・?」
「ああ。詳しくはその中に書いてあるからな。」
「・・・なんでですか!?」
「上からの命令だ、俺が決めたんじゃない。さっさと諦めて荷物纏めるんだな!」
そう言って、ハハハと上司は一笑いして指令所を私に渡した。
なんで今頃に移動命令なのか。
やっぱりこの間、この辺鄙な田舎基地に導入されたばっかりのフラッグの右足を潰してしまったのがいけなかったのだろうか。
それとも敵機に体当たりをして、装甲を捻じ曲げてしまったのが悪かったのか。
でもそれはしょうがないと言って上司も納得してくれたじゃないか。
自分の命がかかってるのだ。フラッグの足一本くらいケチケチしてられない。
この基地は軍にしては上下関係もあまりなく居心地がよかったのにな。
それにしてもここより田舎の基地なんてあるのだろうか。まあ、アメリカ本土は広いからユニオン基地なんて腐るほどあるのかもしれない。
しかし、冬には雪が積もり隔離されてしまった村に軍として救援に行くくらいの田舎だ。
周りにはのどかな草原や畑が広がっているようなくらい田舎だ。
ここを上回る場所があるというのか。
「あの、本当に行かなくちゃダメなんですかね。」
「さすがにMSWADからのお呼びとなるとな。さすがの俺でも断れないさ。」
「・・・今なんて言いました?」
「だから、MSWADから直々のお呼びなんだ。お前も少しくらいは昇進するかもな!」
MSWAD・・・!?と叫びたい気持ちを精一杯抑える。これでも一応上司の手前だ。
それはアメリカ軍ユニオンの中でも精鋭の基地だ。
パイロットも技術者も一度はきっと憧れるだろう存在。
まさかそんなところに自分が移動になるなんて。それもフラッグのパイロットとして。
しかしそれは指令所にはっきりと書いてあった。
ユニオン直属米軍第一航空戦術飛行隊、通称MSWADに・の移動を命じる、と。
「この次期に人事異動なんて珍しいこともあるんだね。しかもパイロットの。」
「なんでも上が近頃目を付けたらしい。全く、手が早いよ。」
「とかいう君も、本当は気になっているんじゃないのかい、グラハム。」
「もちろん興味はあるさ。MSWADが欲しがるパイロット、しかも女性だ。」
そう言って、どこか楽しそうに笑い、二人は廊下を歩く足を止めた。
例のパイロットのお目付け役を預かったグラハムと、何故だか一緒に来るハメになったカタギリが立っている場所はこの基地の本館となる建物のロビーだ。
彼女との待ち合わせ場所はここになっていたはずだ。
軍の基地とは思えない静かで落ち着いた空間。人がまばらに行き交う中、彼女を見つけるのはそう難しくはなかった。
「カタギリ・・・」
「あぁ。間違いなく彼女だね。」
「これは・・・私の予想は悉く外れたらしい。」
「僕も、だよ。」
目的の場所へと人が歩く中、一人だけキョロキョロと辺りを見回している。
軍という特別な環境の中ではあまり見かけない女性用の軍服。
良くも悪くもはとても目立っていた。
「君・・・」
「は、はい・・・!」
後ろを向いている彼女にグラハムが声をかけると、は驚いたように返事をして振り返った。
まるで小動物を思い浮かばせるようだとグラハムは思う。
「君が、・かね?」
「あ、はい。今日付けでMSWADに移動になった・軍曹です。」
「そうか。私はグラハム・エーカー中尉だ。彼は・・・」
「ビリー・カタギリ、技術顧問をやっているんだ。よろしくね。」
「よろしくお願いします・・・!」
それにしても本当に彼女がMSAWDが欲しがるパイロットなのだろうかと疑うのも無理はないだろう。
東洋の血が混じっているのだろうか。サラサラとした黒髪や、どこか幼く見える顔立ちはパイロットには到底見えない。
人は見かけによらない、とはこのことだろう。
「それじゃあ、まずは上の者たちとの面会だな。それが終ったら基地を案内しよう。」
「よろしくお願いします、エーカー中尉、カタギリ技術顧問。」
「そんなに硬くならなくてもいいよ、。これから毎日顔をあわせるんだから。」
どうやら、MSWADも存外楽しそうなところでした。
ドラマティックラブ
・・・エーカー中尉ってちょっとかっこいいな。
080407
思わずやってしまったユニオン。続きます、多分。
グラハムの口調が予想以上に難しい!