「泰衡さん、いらなくなった紙ください!」
「・・・はぁ・・・?」
もうそろそろ大抵の人が床に就く準備を始める時間。
何だかとても面白いことを考え付いたような顔をした彼女が、泰衡の部屋を訪ねてきた。
泰衡は手に持っていた筆を置くと、扉の前で笑っている彼女を一瞥して、溜め息一つ。
「仮にも女性なら、そのような格好で夜半に男の部屋を訪ねるのはいかがなものかと。」
「・・・きっと、泰衡さんなら大丈夫です。」
「・・・そうか。」
とんだ信頼を置かれてしまったのだと、心の中で苦笑する。
彼女が知らなかったとしても、自分はただ1人の男にしか過ぎないのに。
「それで、いらない紙はありますか!?」
「無いこともないが。その前に理由をお聞かせ願おうか?」
この時世、紙は貴重なものだ。
まあ、彼女はこの部屋にいらなくなった書状などの紙があることを知ってやってきたのだろうけど。
それにしても、そこまで紙を欲しがる理由も多少気になる。
「てるてる坊主を作りたいんです!」
「・・・てるてる坊主・・・?」
「そうです。ほら、最近雨ばっかり降ってるから、たまには晴れて欲しいじゃないですか!」
「てるてる坊主如きで天気が変われば、誰も苦労はしないだろうよ。」
「もー、夢が無いですね。泰衡さんも一緒に作りません?」
「断る。そこにある紙を好きに使え。」
ありがとうございます!と言って、嬉々として紙を丸め始める彼女を背にして、泰衡は再び仕事の続きにとりかかる。
部屋には紙が擦れる音と、2人の息と、外から聞こえる雨音だけが響いていた。
自室に自分以外の人がいて、その存在に慣れてしまっているという事実。
心地よいとさえ感じてしまう空間。
「泰衡さん!」
「・・・次は何をお望みで・・・」
「ここに顔書いてください、せっかく筆持ってるんだし。」
そう言って、彼女は白い掌サイズのてるてる坊主を泰衡の前に差し出した。
所々に、書状の黒い文字が見えているのがなんとも滑稽だった。
それでも、彼女が嬉しそうに笑っていればそれでいいと思ってしまう。
「自分で書けばいいだろう。」
「泰衡さんに書いて欲しいんです!」
差し出した筆を持つ手を押し返されてしまって、行き場を失う。
どうやら彼女は意地でも泰衡に顔を書かせたいらしく、それまではここを動くつもりは無いらしい。
仕方がなく筆に墨を着けなおすと、小さな黒い点を2つ、白い紙に書いた。
可愛くない、てるてる坊主。
「ありがとうございます、泰衡さん。これ、ここに飾っておきますね。」
「・・・何故、俺の部屋に飾る・・・」
「せっかく作ったんだから、そういうこと言わないでくださいよ。じゃあ、おやすみなさい!」
「・・・あぁ・・・」
パタン、と彼女が扉を閉めて出て行くと部屋の隅に飾られた小さなてるてる坊主が揺れた。
てるてる坊主と、あなたと、私。
「今日は晴れましたね、泰衡さん!てるてる坊主のおかげですよ。」
「・・・そうかもしれないな。」
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泰衡がてるてる坊主作ってたら可愛いだろうなぁ、って。
ヒロインは「君がため」の主人公だと思ってください。
拍手ありがとうございます^^