どうして私はあの時彼を止めなかったのだろう。

GNフラッグが完成した今、彼が地上へと留まっている理由はなかったのだ。

宇宙では彼の大好きなガンダムが戦っているというのに。

フラッグへと歩いて行くその背中に「帰って来て」とは言えなかった。

彼はとても真っ直ぐな人だから。

そんなこと言ったらきっと困らせてしまうに違いない。

それにガンダムの話をする彼はとても輝いていた。そして彼の仲間を奪ったガンダムを憎んでいた。

だから、私は地上で彼の帰りを待つことしかできないのだ。

精一杯の力で改修したGNフラッグと、彼の存在を信じることしかできないのだ。



「・・・いってらっしゃい、グラハム。」

「あぁ、いってくるよ。」












ここは、一体どこなのだろうか。

身体も何も無い、ただ意識だけが浮かんでいるような不思議な感覚。

私は死んだのだろうか、あのガンダムと戦って。

コックピットを狙ったのだからガンダムに乗っていた彼も無事ではないだろう。

それにハワードやダリル、教授の仇は討った。

世界なんて私の気にするところではなかった。

ただ、ガンダムによって命を奪われていった彼等の仇がとれればそれだけでよかったのだ。

自分がどうなろうとも。




・・・・・




誰かが呼んでいる。

方向の感覚なんてないけれど、確かに声が聞こえる。



「・・・・・・」



そうだ。彼女、には謝らないといけないな。

帰って来て、とも死なないで、とも言わなかったけれどもきっと寂しい思いをさせてしまうだろう。

彼女だけは一人にしたくなかった。




「・・・グ・・ラ・・・ハ・・ム」



聞こえる。誰かが私の名前を呼んでいる。

行かなくてはいけない。誰かがそこで待っている気がする。

辿り着く場所は一体どこだろう。

軍人として数多の命を奪ってきた私の行き着くとこなど、考える間もないだろうが。



「・・・グラ・・ハム・・・」


なんて暖かい声だろう。

冥府への呼びかけにしてはあまりにも優しすぎる。それにとても心地いい。

まるで彼女が私を呼ぶ声にそっくりだ。

だから、もう一度名前を呼んでくれないか。そしたら辿り着ける気がするのだ・・・。











「・・・グラハムッ・・!」


視界に入ったのは真っ白な天井。真っ赤になった瞳。


「グラハム!」

「・・・あぁ、か・・・・」


息をするたびに何かが掠れたような音がなる。呼吸器をつけられていると気付くのにそう時間はかからなかった。

視線を動かせば泣きはらして真っ赤になった目にさらに涙を浮かべるがいる。

私を呼んでいたのは彼女なのか。

そして・・・私は生きているのか。


「・・あんなに・・・無茶しないでって、言ったのに!」

「・・・すまないな。」

「じっとしてなくちゃ、だめ。」


時々しゃくり上げながら話す彼女がとても愛しい。

そっと、包帯の巻かれていない手に触れたの手はとても暖かかった。

そしてとても小さかった。

私はこの小さな手をこの世界に一人置き去りにしようとしていたのか。


「本当に・・・すまない。」

「・・・もう、しゃべらなくていいから・・・」


そう言って笑ったの笑顔はとても綺麗だった。

私が一番守らなければいけなかったのは彼女だったのだ。

私を導いてくれた声も、温もりを分けてくれる手も、この笑顔も。

失いかけてから、ようやく気付いた。





「グラハム・・・、おかえりなさい。」

「ただいま。」



この世界で一番大切なものを今、手に入れた気がした。








ハワード、ダリル、教授。
私はまだこの世界でやらなければいけないことがあるようです。
だからまだ貴方達への元へはいけないらしい。
だが、もしよかったら私達を、いやせめて彼女だけでも見守っていてくれないか。
では、またあう日まで。






080331
25話最終回グラハムから。
勢いで書きました、スイマセン。少しでも暖かい話になってればいいなと。