「ありがとう」
たった一言では足りないけど、これが私の全ての想い
ありがとう
「雪止みましたね、弁慶さん。」
「えぇ、そのようですね。」
昨日の夜から降り続いていた雪は、夕方近くになってようやくやんだ。
庭に積もったばかりの新雪はまだ誰の足跡もついていなく、ただとても美しい。
音という音は無く、時々風の吹き抜ける音と、部屋の中で弁慶さんが読んでいる書物の神がすれる音くらいだ。
「寒くないんですか、さん?」
「大丈夫ですよ。弁慶さんもこっちに来ませんか?」
「ふふっ、僕は寒いのは遠慮しておきます。」
「せっかく綺麗なのに・・・」
背中の方でまた弁慶さんが笑う声がして、再び静寂が訪れる。
明日、望美や朔を誘って雪だるまでも作ろうか。
それともみんなを巻き込んで雪合戦でもしようか。
「何がそんなに楽しいんですか・・・」
「わっ、いきなり耳元でしゃべらないでくださいよ!!」
「君が1人で楽しそうに笑っていたから・・・」
「話、そらさないでください!!」
弁慶さんはよくわからない人だ。
今だって読書を終えて濡れ縁に出てきたのに隣に座るわけでもない。
ただ後ろに立って微笑んでいるだけだ。
一体・・・何を考えているのだろう。
「夕日が雪を照らしているんですね・・・」
「本当だ・・・。すっごく綺麗、って、うわぁっ!!」
弁慶さんの視線に合わせるようにして、庭に視線を戻したそのとき。
頭から視界を遮るようにして降ってきた黒い布。
ふわり、と香る匂いが弁慶さんがいつも身につけている香と薬草の匂いがするので、それは彼の外套だと容易にわかった。
「何するんです・・・・」
「ほら、こんなに手も冷たくなっている。」
「べ、べ、弁慶さん!?」
「風邪でもひいたらどうするんですか。」
あろう事か、彼は外套にくるまれたごと後ろから抱きしめた。
さらに冷え切った手を両手で握る。
そして何事も無かったかのように話し続けた。
から弁慶の表情は見えないし、弁慶からの表情も見えなかった。
「こうしてると温かいでしょう?」
「あの、弁慶さん・・・」
「なんでしょう、さん?」
「た、誕生日、おめでとうございます・・・」
「えっ・・・・」
の不意打ちに驚いたような声を出して、腕の力が緩んだ隙にくるりとは身体の向きを変えた。
その拍子に二人を隔てていた外套が宙を舞う。
赤くなった顔で精一杯笑って伝える。
弁慶さんの驚いたような顔は滅多に見れないものだ。
「ありがとう・・・・」
「・・・さん?」
「生まれてきてくれて、ありがとう。弁慶さん・・・」
「・・・・君という人は・・・・、いけない人だ・・・」
貴方が生まれてきてくれて、
私は貴方と出会えた。
その奇跡に
今、感謝を。
そして喜びを教えてくれた貴方に
この先の未来、幸多からんことを・・・
ありがとう。
070211
HAPPY BIRTHDAY!! BENKEI.